「整理業をしていると、亡き母親に話しかけている気持ちになる」

私の疑問に対して、石見さんは「亡き母親への孝行がある」と教えてくれた。

整理の様子。ここまで片付けられれば、あと一息。

「母親は整理整頓、清掃好きな人でした。最後は認知症で施設で旅立ちましたが、私は当時、孝行らしいことをできませんでした。現在、整理業をしていると、亡き母親に話しかけている気持ちになりますね。どの現場でも完結すれば、きちんとできたよと、心の中で亡き母に報告しています」

実際に母親の遺品整理をした時には、普段の仕事とは違って作業が進まなかったという。しかしその時に、この仕事は“依頼人の心の整理”だとも感じた。

遺品整理も生前整理も、本来は他人任せではなく、身内や本人が行ったほうがいい。気持ちを整理することができるからだ。けれども力が足りず困っている人がいるのなら、駆けつけて手助けをしたい。石見さんはそう話す。

「ゆるやかなつながり」がゴミ屋敷化を防ぐ

早稲田大学の石田光規教授の調査によれば、人が生きていく上でのサポート役は、本人が結婚するまでは「親」、結婚後は「配偶者」、結婚を解消、つまり離婚や死別した後は「子供」が主になるという。

早稲田大学の石田光規教授

「特に、オンラインが主流となった現代では、あまり意識しなくても維持できる家族とのつながりがますます重要になります」

たしかに家族とのつながりがあれば、本人がピンチの時にサポートを得られやすく、社会とのつながりも失われにくいだろう。しかし、連載第16回でも述べたように「結婚できない人」がいるし、「家族」とのつながりが希薄な人もいる。

私自身も幼い頃に母を亡くし、父とは離れて暮らしたため、一般的な家庭が思い描けないことと、それに対する嫌悪感がある。一方で家族への強烈な憧れ、他者と親しくなりたいという思いもある。それらが入り交じり、結局は傷つきたくないがために大事なところで人と壁をつくる。だから私の家は汚くはないものの、ゴミ屋敷に住む人の気持ちに共感できる部分がある。

孤立孤独に陥りやすい人はどうすればいいか。石田教授は「ゆるやかなつながり」を勧める。

「誰でも、たとえゴミ屋敷の住人でも、日常生活の中で行く場所があると思うんです。買い物に行く、髪の毛を切る、そういった場所でお互いにゆるやかに見守れる、つながれる社会であるといいですね」