そうであれば、テレワークの恩恵を最も享受するのは、東京圏に住む会社員のはずだ。テレワークのおかげで、通勤に伴う苦痛から逃れられる。在宅勤務の日は、起きている時間の1~2割を節約できる。テレワークは、東京圏に居住する優位性を高めたとみるのが自然である。
もちろん、自然に囲まれた生活を好むとか、子育てのために緑の多い環境を望む人は少なくない。しかし、この場合も、東京圏から遠く離れた地域よりも、郊外、例えば在来線で1.5~2時間程度の南関東、北関東地域を選ぶ人が多い。これらの地域であれば、日頃は在宅で仕事をこなしつつ、一定の頻度で都心の職場に出かけられる。飛行機代や新幹線代もかからない。
遠隔地への移住が難しい理由
たしかに、テレワークを利用すれば、いつでも、どこでも仕事ができる。だからといって、24時間365日をテレワークでよしとする職場は少ない。週に1度、あるいは月に2、3度は出社を求める。多くの企業が、対面の価値を重視するからだ。対面の価値とは、「良好な人間関係の構築」、「組織の一体感の醸成」、「ディスカッションを通じたアイデアの涵養」などである。
緊急事態宣言が解除されるたびに、昼夜の人出が増える。これも、意識、無意識にかかわらず、多くの人が対面の価値を評価しているからにほかならない。
実際、人の感受性や共感力は、他人の表情や息遣い、仕草を繰り返し観察することで得られるとの見方がある。この見方に従えば、対面のコミュニケーションをすべてオンラインで代替することは難しい。組織力を重視する企業が、一定頻度でリアルのコミュニケーションを求めるのは自然である。
テレワークが地方を利するという見方は、錯覚に近い。恩恵を受けるのは、主に東京圏に居住する会社員だ。テレワークは、これまで地方移住の可能性を探っていた人々の検討インセンティブをむしろ弱める。テレワーク移住が大きなムーブメントになるとは、考えにくい。
特筆すべきは東京圏への人口流入超の継続
昨年テレワーク移住が俄然脚光を浴びたのは、テレワークの普及と同じタイミングで、東京都の人口移動が流出超に転じたからだ。東京都は、20年5月から21年2月まで流出が流入を上回った。単月で流出超を記録したのは、約9年ぶりである。
しかし、人の移動は例年春の就職、就学期に集中する。公表された本年3月、4月を含めた直近1年間(2020年5月~21年4月)の通計は、結局、東京都も東京圏1都3県も流入超となった。