なぜコロナ禍でも地方移住は増えないのか。元日銀理事の山本謙三さんは「テレワークで地方移住が進むという考えは錯覚に近い。人ありきではなく、従来の製造業のような高い付加価値を生む産業を作ることを優先させるべきだ」という――。
子供と一緒に家で働く父
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単発型施策を取り込む地方創生

政府が、転職を伴わない地方移住を推進している。支援金や交付金で、テレワーク移住を促進しようというものだ。すでに移住支援事業の対象にも付け加えられた。23区内の職場勤務を継続しつつ、東京圏外または圏内の「条件不利地域」に移住する人に支援金を支給する制度だ。

しかし、「テレワークで地方創生」というのは錯覚に近い。テレワークの普及は、地方を利するものではない。むしろ大都市圏の居住の優位性を高める。コロナ禍をきっかけに東京圏への人口流入超数が縮小したのも、景気の落ち込みによるものであって、テレワーク移住とほとんど関係がない。

2014年度にスタートした地方創生には、多くの単発型の施策が組み込まれている。企業版ふるさと納税の導入もあったし、東京23区の大学定員の抑制もあった。気が付けば、多種多様な施策が数多あまた取り込まれている。しかし、政策効果の検証は不十分だ。

地方創生の成否は、大都市圏に伍する付加価値を地方の産業が生み出せるかの1点に尽きる。一つひとつの施策を、日本経済全体の視点から再点検すべき時だろう。

テレワークは大都市圏の居住の優位性を高める

テレワークの普及は、一見、地方にメリットをもたらすようにみえる。「いつでも、どこでもつながる」技術のおかげで、遠く離れた地域でも都心の職場に勤務できる。ならば、豊かな生活を過ごせる地方に引っ越し、テレワークで勤務を継続してはどうか。これがテレワーク移住を推進する発想だろう。

しかし、地方居住のメリットとして、これまで地方自治体が強調してきたのは通勤時間の短さだった。実際、東京圏の通勤時間は人により1時間を超える。地方であれば半分以下で済む。通勤時間が減れば、家族団らんの時間も増やせる。これまでも、通勤時間を理由に地方で働くことを決めた人は多かっただろう。