地方産業の付加価値向上が成否をにぎる
万一、こうした流れを人為的に止めるようなことをすれば、日本経済全体の成長力が殺がれる。そうなれば、元も子もない。地方で貴重な人材を使うには、地方経済も日本の成長に寄与するだけの付加価値を稼ぎ出さねばならない。
日本の人口は、2080年には7400万人台に縮小する。今より4割少ない。それでも、現在のイギリス、フランス、イタリア各国の人口よりも多い。グローバルにみれば、日本が多人数国家であることに変わりはない。日本消滅や地方消滅を心配しなければならない水準ではない。人口減少に歯止めがかからないのは大問題だが、これは日本全体の課題である。地方創生も、日本経済全体の視点を欠いてはならない。
では、これまでの地方創生施策は、地方産業の付加価値向上にどれほど寄与してきたか。例えば、インバウンドの観光客は一昨年まで大幅に増加した。しかし、地方の観光業の中核は宿泊、飲食サービス業だ。両産業の付加価値水準は、産業界の中でも際立って低い。従業員の給与はこの付加価値の中から支払われる。この付加価値水準で、若者たちを地方に引きとめることはできない。
人手不足が最大の課題となる日本経済にとって、重要なのは数でなく質だ。地方の観光業が目指すべきは、客数の増加でなく、高級化による利益率の向上である。
地方移住の支援にしても東京23区の大学定員の抑制にしても、地方創生には「人、先にありき」の施策が多い。しかし、大都市圏に伍する所得を稼ぐ地方産業が生まれてこなければ、人は定住しない。逆に高い付加価値を生み出す産業があれば、人はおのずから集まる。
「地方創生」はいったん歩みを止めて、一つひとつの施策を点検すべき時だろう。評価の基準は、地方産業が大都市圏に伍する付加価値を生み出せるかどうか、すなわち日本経済の成長にどれだけ寄与できるかである。地方圏vs.東京圏という対立軸で日本経済を語るのは、そろそろやめにしたい。