もともと人は、景気の好転時に地方圏から大都市圏への移動が活発化し、景気の悪化時に移動が鎮静化する傾向がある。今回の人流の変化も、コロナショックによる景気の大幅な後退の反映である。むしろ、これほどの景気後退にもかかわらず、東京圏1都3県が流入超を続けたことの方が特筆に値するだろう(図表1参考)。
興味深いのは、東京都への流入超が大幅に縮小する一方で、神奈川、埼玉、千葉の3県がむしろ拡大したことである。3県は、東京都からの人口の受け皿として機能している。コロナ禍で、大学はオンライン授業に移行した。飲食業などでのアルバイトの口も減った。都内で一人暮らしをしていた学生や独身者が、近県の実家に戻った可能性が高い。
地方創生には、いくつかの基本目標が掲げられてきた。当初の基本目標の1つが「2020年までに東京圏への人口流入超をゼロにする」だった。しかし、14年にこの目標が掲げられて以来、流入超幅はゼロに向かうどころか、拡大を続けた。このため、政府は2019年に達成を断念し、この目標を「目指すべき将来」と位置づけ直した。
しかし、コロナワクチンの接種が一巡し、景気が回復すれば、人口は再び東京都や東京圏に向かうだろう。日本経済にとっては、景気の回復が望ましい。「目指すべき将来」とはいえ、「東京圏への人口流入超ゼロ」とはどのような経済の姿を想定するものか、国、地方の社会経済ビジョンを改めて問い直してみる必要がある。
人が東京圏に集まる本当の理由
では、なぜ人は東京圏や大都市圏に集まるのか。人が居住地を変える圧倒的な理由は、経済的なものである。最近は東京圏だけでなく、大阪府や福岡県への流入も活発だ。これも、両府県の経済活動が好調に推移している表れである。「地方が好き」、「都会が好き」といった個人の嗜好や、テレワークのような技術的な変化が、基本的な人口の流れに及ぼす影響は小さい。
今後、日本経済は深刻な労働力不足に向かう。生産年齢人口(15~64歳)は、長期にわたり年率1%前後のスピードで減り続ける。人手不足は、地方圏に始まり、すでに大都市圏に波及した。
大都市圏の経済は、もはや他地域からの人口流入なしには成り立たない。しかも最近は、他地域からの流入によっても、不足する人手を埋め切れない。団塊世代の引退が進んだからだ。大都市圏が地方圏に人手を求める圧力は、今後ますます高まる。
人は、高い所得を求めて移動する。現時点で高い所得を提示できる産業は、大都市圏に集中している。地方の産業が大都市圏と肩を並べるだけの所得を稼ぎ出せなければ、人の流れは止まらない。