職員Aがいうには、5月15日に4階フロアから入院患者2人の感染が発覚したことが始まりだったという。

急ぎ5人部屋の416号室に隔離したが、その3日後、そこから最も離れた407号室で1人、408号室で2人の陽性者が出た。

Aは、416号室へ陽性者たちを移動させると思ったが、病院側は同じ部屋に留めおいたというのだ。ともに5人部屋だが、陽性者と陰性者のベッドは1メートルほどしか離れておらず、パーティションもない。

写真=iStock.com/upixa
※写真はイメージです

不十分な対策でついに死者も

食事も歯磨きもトイレも同じところを使い、ゾーニングも不十分だったという。現場の責任者に訴えたが、保健所の指示でやっている(札幌市保健所医療対策室は一般論だとしながら、「そのような指導や助言をすることはない」といっている)、陰性の濃厚接触者はすぐ陽性に変わるとみなして対応するといわれたそうだ。

医師会のトップが自ら経営している病院が、このようなコロナ対応しかしてないとは、背筋が寒くなる話ではないか。

当然だが、感染対策が不十分なため、5月18日には患者6人、職員3人が感染し、北海道庁からクラスターと認定された。6月1日には職員1人、患者16人になった。

職員Dは、患者やその家族に真実を伝えられなかったことが何よりつらかったという。

患者の中には「隔離されていたのになぜコロナが移ったのか」と看護師に聞いてくるものもいたが、「陽性者と同じ病室でしかも隣のベッドが陽性者ですよ」とは口が裂けてもいえるはずはなかった。

ついに6月5日、初めてコロナ感染による死者が出た。脳出血で肺が悪化していた患者で、2日後に脳梗塞の患者も亡くなり、パーキンソン病の患者も亡くなった。

その上、中川会長が「医療従事者の待遇改善」を訴えてきたため、1日3000~4000円の手当が出るようになったが、この病院では6月21日現在、一切支給されていないとDはいっている。

病院幹部の忖度で検査もうやむやに

こんなこともあった。中川が医師会長になった昨年6月ごろ、看護師が39度台の熱を出して、「心配だからPCR検査を受けさせてほしい」と申し出たが、病院幹部から、「極力、検査は受けないでほしい」といわれたというのである。

会長の病院から感染者を出すわけにはいかないという、病院幹部たちの中川への“忖度”からだったようだが、呆れ果てる。

使命感を持った医療従事者たちが、この病院の不十分な感染対策や患者への不誠実な説明に不信感が募り、辞める職員も多いようだ。

灯台下暗し。病院側は文春の取材に対して、そのようなことはないといっているが、中川会長は即刻、会長職を辞して病院へ戻り、事実関係を調べて公表すべきだと考えるのは、私ばかりではないはずだ。