コロナ禍のテーラーたちを支援

ケニアでも、コロナ禍の影響は大きく、2020年3月にはロックダウンが実施され、経済も大きなダメージを受けた。治安の悪化が懸念されたこともあり、妊娠していた河野さんは3月、出産のために一時帰国した。

2020年7月ごろ、一時帰国中の河野リエさん。着用しているTシャツの売り上げの一部を、コロナ禍の影響で困っているケニアのテーラーや職人に寄付した 写真=河野リエさん提供

コロナ禍は、取引していたテーラーや職人たちにも大きな打撃を与え、「仕事が激減した」「家賃が払えない」といった声も聞こえてきた。そこで河野さんは、売り上げの一部を寄付するプロジェクトを展開して彼らを支えた。

昨年9月に日本で長女を出産した河野さんは、2021年2月に子どもを連れてケニアに戻った。

ケニアでは、自宅に来て子どもの保育をしてくれるナニーを気軽に雇うことができる。河野さんは、「いいナニーさんに毎日来てもらっているので、ガッツリ仕事ができています。ナニーさん同士が集まり、一緒に子どもを遊ばせたりしてくれていて、娘もいろいろな人種の人たちに囲まれてのびのびと育っています」と話す。

「一歩踏み出すきっかけ」をケニアの人にも

ラハケニアが軌道に乗り始めた現在、河野さんは次のステップについて考えている。

ナニーにおんぶされる河野さんの娘 写真=河野リエさん提供

「日本のお客さまが『一歩踏み出すきっかけ』はある程度作れてきたように思います。ただその一方で、ケニアの人たちが『一歩踏み出すきっかけ』は作れているのか、と考えるようになったんです」

「何をやるか」はまだ具体的に決まっていないが、1年以内に一つの事例を作ることを目標に定めた。

「テーラー志望の人たちを支援してもっと雇用を作るのか、ストリートチルドレンや若年性妊娠をした母子を対象とするのか、さまざまな社会問題を視野に入れながらリサーチしているところです」

「あなたはいま幸せ?」

河野さんは、「将来、ほかの国に行くというのはありえるけれど、日本に帰るという選択肢はあんまりないですね」と話す。ケニアに来たのは、たまたま夫が希望したからだが、もし今後、夫がよその国で事業を興すことになっても、ラハケニアの仕事が忙しければ、ついていかないと言い切る。

2020年11月に東京・代官山で開催したポップアップショップ 写真=河野リエさん提供

「私たち夫婦は、『それぞれが夢中になって打ち込める物があれば、それが一番いいよね』という考え方なんです。付き合っている時から遠距離でしたし、結婚してケニアに住むようになってからも、家には常にスタッフや夫の会社のインターンがいて、2人きりになることがあまりなかったせいかもしれません」

自分に自信がなく、「何がやりたいかわからない」「何ができるかわからない」と悩んでいたかつての河野さんの姿はもうない。

「ケニアの人って、『自分の幸せ』を考えている人が多いんです。『あなたはいま幸せ?』と聞かれることが多くて、その度にハッとします。日本にいた頃は、自分がどうしたいかよりも、周りがいいと言いそうなことを選択してきましたが、もっとずうずうしくなって、自分の幸せを考えていいのかな、と。ここではみんな、自分自身を幸せにして、自分の人生を本当に生きているからこそ、ストレスフリーで明るい。今はそんなケニアにほれ込んでいます」

写真=河野リエさん提供
河野さん(左)と、河野さんの娘を抱っこするナニー(右)。2カ月違いの娘と一緒に週3回来てくれている
(文=山脇 麻生)
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