中学・高校で伸びる子の共通点は「親の期待値の低さ」
ただ面白いのは、親も子も「なぜ、ウチが東大に入れたんだ!?」といまだに考えていることだ。彼らの学校は進学校ではなく、いい意味で親の子供への期待感が薄かった。この「期待感の薄さ」は賢い子を育てる際、実はとても重要な要素のひとつだ。教育カウンセラーとして長年活動している筆者の元に寄せられる相談の中には「子供が引きこもり」という内容は際立って多い。
この子たちは、元有名私立中高の出身者であることがほとんどである。分析するに、彼らは「東大・医大を目指すことが当たり前」という環境に置かれ、彼らの親や親戚縁者もそれを強く期待している。最初から、飛ぶハードルがとてつもなく高いのだ。
逆に、期待値が高くない家庭では、そもそもハードルが低く、ノルマのようなものもない。仮に親がハードルを設定したとしても「まあ、別に飛んでも飛ばなくてもいいけど、飛びたければ飛べば?」といった感じ。どんな高さのハードルであっても、子供が少しでも挑戦した段階で、親は「いいね」と言ってあげられるメリットがある。
ドラマ「ドラゴン桜」(TBS系)に登場する元暴走族の弁護士・桜木建二は作品の中で「子供はみんなやればできる子だ」というセリフを言うが、はたしてどういう家庭の子たちが高いハードルを越えていくのだろうか。
平凡な子が中学高校で急成長し東大へ「その時、親は何をしたのか」
本稿では、中高時代という、子育てする親からすると最もやっかいな“思春期”に、「一発逆転本」に登場する東大生の親は何をしていたのかを以下3つのポイントで紐解いてみたい。
1 紆余曲折を認める
男性のFさん(工学部3年)は元不登校生徒だ。神奈川の公立高校に入学したものの、次第に授業についていけなくなり、2学期からは完全不登校に。母親は当初心配し、病院に連れて行くこともあったが、次第に見守るようになっていく。
「きっと、自分の道を探っているんだろうなと思っていたんです」
Fさんの母親はそう話す。高1の終わりには単位不足で、留年か退学かの二択を選ぶ時がきたが、彼はやがて自分で島根県の山間部にある高校に転校し寮生活をスタートする。
もともと大学にさえ行く気がなかったFさんがその後、なぜ東大に挑戦したのか、そのプロセスは本書を読んでもらうとして、筆者は両親がどんな時でもFさんのことを否定せずに「成功しようが失敗しようが、親は息子の決断を尊重する」としたことが合格のカギだったと感じる。
Fさんの父はこう述べる。「親として思っていたのは元気でいてくれて、自立してくれたらいいなということだけです」。
世の中の親で、Fさんの両親のような対応ができる人はどれくらいいるだろうか。
筆者が受ける教育相談の事例では、成人した子供が経済的にも精神的にも自立しないという悩みはとても多い。そうした家庭に過去の状況を聞いてみると、「不登校は子育ての失敗」と親がひどく動揺し騒ぎ立て、かえって事態の悪化を招いてしまったという展開が目立つ。
わが子がドロップアウトした時に「ただ見守る」ことは難しい。心配のあまり叱咤し、あれこれ指示したくなる。だが、そこをぐっとこらえ、Fさんの親のように「きっと自分の道を探っているんだろうな」と自制できるか。どんな結果であれ、わが子を引き受けるという親の覚悟の有無が、迷い道に入り込んだ子供の心の強い支えになるのだろう。