個人資産を形成するためには、会社から個人にキャッシュを戦略的に動かしていかなければならない。会社から個人にキャッシュを移動させる方法としては、役員報酬、役員退職金、及び賃料が代表的である。これら3つの方法にしても、顧問税理士と協議のうえ、全体としてもっとも効率の良い配分を模索することになる。
節税対策は相続全体をみて考える
オーナー企業においては、税金の負担を「法人税」「所得税」と税金の項目ごとに検討してもあまり意味がない。社長として興味があるのは、個々の税金の多少よりも会社と家族を合わせた総額としての税負担だ。だからこそ、税金の計画にしても、会社と家族を合わせたうえでの最適解でなければならない。
たとえば、会社に利益が出れば、法人に法人税が課税される。役員報酬や退職金をもらえば、所得税が社長に課税される。さらに相続が発生すれば、後継者に相続税が課税される。このように、オーナー企業においては、様々な税金が異なる主体に課税されていく。
そして、税金の違いによって、税の計算方法も違ってくる。法人税は定率だが、所得税や相続税は超過累進課税である。節税対策を考える場合には、法人から後継者に至るまでの一連のキャッシュの動きを想定したうえで、全体としての税負担が軽減されるように仕組みを組み立てていくことになる。
「こうすれば、法人税が軽くなる」といった類のアドバイスは、たいてい戦術レベルのものでしかない。戦略は戦術に勝る。社長は戦略家でなければならない。
事業承継のために10年は確保したほうがいい
ポイント③ 自分のなかに「時間軸」を持て
無理のない事業承継をするためには、「10年」という長期的な視座を確保していくべきだ。
「後継者を呼び戻して、自社株を渡せば、終わり」という単純なものではない。後継者の経営手腕を磨き、関係者の視線を先代から後継者へと変えていかないといけない。そうなると、圧倒的に時間が必要だ。「いつかはじめる」というのでは、いつまでもはじめることができず、事業と家庭に混乱をもたらす。
社長のなかには、事業承継を「自分が亡くなった後のこと」と漫然とイメージしている人がいる。こういった人に限って、「自分は健康だから大丈夫。事業承継はまだ先のこと」と安直に捉えて、目の前の業務ばかりに集中してしまう。
事業承継は、重要性が高いものの緊急性は低い。そのため、重要性が低いものの緊急性が高い目の前の業務に劣後してしまいがちだ。判断は、重要性を基準にしなければならない。