「私は低学歴の人たちが好きだ」

2期目をめぐる大統領選挙で大接戦を展開したトランプだが、そもそも、2016年の選挙の時、彼が大統領になると断言していた日本の有識者はほとんどいなかった。

ヒラリー・クリントン候補が優勢だろうと考えていた人が多かったはずだ。しかし、評論家の副島隆彦は少し違う視点でトランプ当選の可能性を捉えていた。

英語に堪能な副島は、与件よけんの中で最悪の状況を分析するインテリジェンス能力に長けている。公開されている情報の中から、状況の動因となっている事柄を的確に探し当てる。

彼は、2016年の大統領選挙運動の最中、ネバダ州でのトランプの次の一言に焦点を当てている。

「私は低学歴の人たちが好きだ」

写真=EPA/時事通信フォト
2016年12月17日、米国アラバマ州・ラッドピーブルズスタジアムの観衆に語りかける、アメリカ大統領選で勝利したドナルド・トランプ氏。「USA Thank You Tour 2016」と題したラリーの一環で。

これを聞いた共和党員たちからは拍手と歓声が巻き起こったという。低学歴が好きだといわれ、熱狂する支持者たち。この時、副島はトランプの勝利を確信する。

この低学歴、ゆえに低所得層の白人大衆であるアメリカ下層国民(中流と絶対に呼べない人たち)が自分は大好きだ、というトランプの暴言ともいえる本音の発言が重要なのだ。

今度の米大統領選挙の醍醐味は、この正直な言論だ。トランプ旋風の中に表れた正直な指導者からの訴えかけだ。自分たちの指導者になる者が、本気で、体を張って本音の言論をやってみせると、大衆はそれに応える。それが「あなたを支持するよ、応援するよ」ということだ。

本場の大阪漫才(吉本興業の難波花月劇場)でも、最高級の芸を極めた漫才師は、「あんたらアホなお客がいてくれるからワシの漫才が冴えるんや」という観客罵倒芸をやる。客はゲラゲラと笑う。アメリカの大衆・庶民の感情の勘どころを、しっかりと自分のアメリカ・テレビ出演漫才芸で40年間も(30歳の頃からもう40年)みっちり自分の体で仕込んできたドナルド・トランプに勝てる者はいない。(副島隆彦『トランプ大統領とアメリカの真実』日本文芸社)

日本におけるネトウヨ的言論の増殖には、格差社会が進行するなかで、エスタブリッシュメント層に対するルサンチマンが原動力になっていると見る向きも少なくないが、同様の視点である。果たして、トランプは2016年の大統領選挙に当選した。

トランプの強烈な選民思想

トランプがまず掲げたのは「アメリカ・ファースト」である。就任演説の時から、外交にも「自国第一主義」を適用することを明確にした。では、トランプはこれを実現させたくて大統領となったのか。

彼を政治の舞台へと向かわせた動機とは何だったのか。トランプを分析するにあたっては、彼が大統領になったあとで書かれたものよりも、それ以前に書かれた本のほうが参考になる情報が多い。