リモートでの活動に慣れてきた企業

例えば、企業の営業活動の多くはリモートに切り換えても、大きな受注減とはならず、むしろ費用削減の効果が大きいことを、多くの経営者が認識してしまった。リモートでも回る業務のために、賃料の高い都心に広大なオフィスを構える必要はないと判断した企業も少なくない。あるいは産業財メーカーなどでは、現地に社員を派遣して行っていた機器の点検などを、リモート対応できるように製品の仕様から見なおす動きが進んでいる。

コロナ禍の収束後に、顧客はどこまで戻ってくるのか。交通企業は、状況を俯瞰ふかんしながら、アフター・コロナの需要減に備えることを迫られている。

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マーケティング論の古典が示すヒント

ここで古典的なマーケティング論のひとつの発想法を振り返ってみよう。この発想法は、事業の責任者などが、中長期の経営を検討するうえで今なお有効であり、各種の書籍などで繰り返し取り上げられている。

マーケティング論の有名な格言に、「ドリルを買おうとしている人は、ドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」というものがある。製品志向を脱し、顧客志向で発想する要点を示す言葉として知られる。

この格言を広めたのが、ハーバード・ビジネス・スクールの教授だったT.レビットである。彼は別の論文で、「鉄道を利用している人々は、列車に乗りたいのではなく、移動をしたいのだ」との指摘も行っている。

「欲しいのは、ドリルそのものではなく、穴」「実現したいのは、鉄道に乗ることではなく移動」の含意は、自社の製品やサービスが購買される理由(ニーズ)を、手段ではなく目的にさかのぼってとらえることである。顧客にとって製品やサービスは手段であり、何らかの目的を実現するために購入される。この目的をさかのぼる発想は、事業の置かれた状況をマーケティング・サイドから俯瞰し、中長期の経営課題への備えにつながる点で重要である。