生活動線の延長線上に設置すればいい

見方を変えると、米国は、既存の動線の延長線上に接種会場を設け、より多くの人が気軽に接種を受けられる環境の整備に取り組んだ。ニューヨーク州は試験的に、地下鉄の駅などに予約不要の接種会場を設けた。日常の通勤経路の中で接種できれば便利だ。便利であるから人はそのサービスを使う。反対に、手続きが面倒だったり、時間がかかったりすると、サービスは敬遠される。

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バイデン政権は、ナッジの知見を取り入れて迅速な接種の増加を目指したといえる。それに加えて、ワクチンを接種できる職種を拡大するなど必要なルールの改正も迅速に実行した。その結果、5月13日には、疾病予防管理センター(CDC)が、決められたワクチン接種を受けたうえで2週間経過した人はパンデミック発生以前の生活様式に戻って構わないとの指針を公表した。

なお、バスなど公共交通機関の利用時は接種完了者もマスク着用が義務付けられる。目先、ワクチン接種によって米国経済の回復の勢いが増す可能性は高まっている。

「接種か五輪か」優先順位が分かっていない

重要なことは、政府が、政策の優先順位を明確化できているか否かだ。理論的に考えると、政府は、まず、集中して感染対策を徹底する。一時的な経済の落ち込みには、財政政策や金融緩和などでしっかりと対応する。それが、医療の逼迫ひっぱくを回避し、ワクチン接種体制を支える。ワクチンの接種が進み集団免疫が獲得されれば、経済は正常化に向かう。それが新型の感染症に対応する政策の基本スタンスだ。

足許の菅政権の政策運営は、そうなっていない。政府の五輪開催への意識は強い。見方を変えれば、ワクチン接種が重視されなければならない中で、五輪の開催にこだわるあまり、どちらに集中すべきか優先順位が分からなくなっている。それが、ワクチン接種が遅れ、国内の感染抑制もままならない状況を生んだ。

5月中旬時点のワクチン接種と感染の状況を前提とした場合、五輪開催はさらに社会心理を悪化させる可能性が高い。海外に目を向けると、インドでは感染が深刻だ。インドの感染拡大は、新興国へのワクチン供給の不足を生んでいる。感染対策の優等生といわれてきた台湾、シンガポールでも感染が増加している。

7月23日の五輪開催までにその状況がどう変化しているかは分からない。現状を前提にすれば、海外からの入国者増加に国内世論が反発するのは当然だ。