緊急事態宣言が機能しづらくなっている

2つ目は、緊急事態宣言などの感染対策が、今のところ期待されたほどの効果を発揮していないことだ。足元で、緊急事態宣言が適用される都道府県は増えている。ワクチン接種が進まない中で、感染対策の効果が効きづらい状況が続けば、政府や各自治体は、より強い感染対策をとらざるを得ないだろう。

それは、わが国経済にとって追加的な下押し要因だ。その一方で、飲食業界では休業要請への反発が強まっている。社会心理が悪化し始めていることは軽視できない。

3つ目として、インバウンド需要(観光などのために海外からわが国を訪れる人)が蒸発した影響も大きい。特に、地方の温泉街などの観光地にとって、中国などからの観光客の増加は、地域産業の活性化に不可欠な要素だった。その蒸発は、わが国の所得・雇用環境に無視できない影響を与える。

夕暮れ時の大阪・新世界
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これらの要因の中でも、ワクチン接種の遅れがわが国の株式市場に与えた影響は大きい。国内で高齢者へのワクチン接種が始まった4月12日から5月19日まで、日経平均株価は約5.8%下落した。接種の遅れを理由に、わが国経済の先行き懸念を強める投資家は増えている。

米のスピード接種を実現させた「ナッジ」

同じ期間、主に在来分野の企業から構成される米国のS&P500インデックスは0.3%下落した。日米の株価の差を生んだのは、ワクチン接種の差だ。5月21日時点の米国で、ワクチンの接種が完了した人が全人口に占める割合は、37.51%だ。米国の接種完了ペースは英国を上回る。ワクチン接種が米国経済を正常化させ、在来分野の企業に追い風が吹くとの投資家の予想が、S&P500インデックスの下値を支えた。

ポイントは、バイデン政権が、人々が手間、わずらわしさ、抵抗感を感じることなく、効率的にワクチン接種を受けられる体制を、スピード感をもって整備したことだ。その象徴的なケースの一つが、シアトル・マリナーズの本拠地「Tモバイル・パーク」で、来場者に無料のワクチン接種が実施されたことだ。

その背景には、行動経済学の“ナッジ”の知見を活かした側面がある。ナッジとは、人々がより良い選択ができるよう、強制するのではなく、自発的な意思決定をそっと後押しする取り組みをいう。わが国では、野球場でワクチン接種をすることはできない。しかし、米国はそれを実現した。