バブル期の日本よりさらに危険な米国の状況

日本のバブル時、資産効果で経済が狂乱したのにCPI(全国総合。生鮮食品を除く)が、1986年から88年の3年間、0.5%と安定していたのは、狂乱経済という強烈なインフレ要因を円高という強烈なデフレ要因が相殺していたからだ。

黒田東彦日銀総裁も一橋大学大学院教授時代に著された『元切り上げ』(日経BP社:2004年1月刊)という本の中で「経済は87年前半には着実に回復し始めた。しかし、大幅な円高の影響から物価はきわめて安定しており86年末から87年初めにかけて幾分下落さえしていた」(p41)と書かれている。

黒田総裁も認識されているように、円高にはデフレ効果があるが、当時は強烈な円高が進んでいたからデフレ効果も強烈だったのだ。ドル/円は1984年末1ドル=251.58円、85年末200.60円、86年末160.10円、87年末122.00円と3年間で129.58円も円高が進行した。この強烈なデフレ要因が相殺していなかったら、当時のCPIは爆上がりしていたと思われる。

たしかに今の米国の資産価格の上昇は、まだ当時の日本ほどではない。しかし、当時の日本と同様、株価は史上最高値を更新している。これはならして言えば、株を保有している人は皆、儲かっているということ。そして米国人は、日本よりはるかに多くの国民が株を保有している。この資産効果は強烈だと思う。

そのうえに、ドルは安定しており強烈なデフレ要因が今の米国には存在していない。ゆえに私は米国のCPI上昇は強烈なものとなると思うのだ。

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専門家は次々と“警告”を発している

米国ではサマーズ元米財務長官がインフレ懸念を公言している。彼は「1970年代に直面した試練に向かっていることを認識できていない」と、米連邦準備理事会(FRB)がインフレリスクを軽視していることを非難しているそうだ(5月8日付け日経新聞「セミが告げる『大きな政府』の賭け」)。

なお、1970年代に直面した試練の結果、1980年に米長期金利は20%、政策金利は24%まで上昇したことを忘れてはならない。

サマーズ氏のほかにも、私の知る限り、IMF(国際通貨基金)の元チーフエコノミストOlivier Blanchard氏、プリンストン大学のHarold James教授、Markus Brunnermeier教授も、同じような警告を発している。

彼らのインフレ警戒は、米政府が1.9兆ドル(約200兆円)もの経済対策による現金給付を行い、さらにはバイデン大統領がインフラなどに今後8年間で2兆ドル超(約220兆円)を投じる「米国雇用計画」をぶち上げていることに起因している。しかし日本のバブルを研究すれば、彼らの危機感はさらに高まると思っている。

※編集部註:初出時、米国の経済対策と追加経済対策案について、日本円での金額表示に誤りがありました。訂正します。(5月19日14時10分)