男女の騙し合いは永遠のテーマ
あらすじは――遊女のお杉が、「お父っつぁんのためにカネを工面して」と嘘をつき、なじみ客の半七に迫ります。半七はその半分しか持っていないため、応じることができません。
そこでお杉は、同じくなじみ客で、隣の部屋に待つ田舎者の金持ちの角蔵のもとへ行き、「おっ母さんが病気で、高麗人参を買ってやりたい」とまた嘘をつき、角蔵が取引のために持っていたカネをもらい、半七からもらった分を合わせて、「お父っつぁんに渡してくる」と言って、半七や角蔵の部屋から離れたさらに別の一室に向かいます。
そこには目を布で押さえている色男が座っています。
男の名前は芳次郎。実はお杉の本当の恋人で、お杉に金を無心した本当の相手だったのです。「ありがてぇ、これで目の治療ができる」と去ってゆきます。
ところが、お杉は置き忘れられた芳次郎宛の手紙を見つけてしまいます。読んでみると、小筆という名の別の遊女が芳次郎に宛てたもので、「田舎の大尽(金持ち)の身請けを断ったが、代わりに大金を要求されている。眼病と偽り、お杉をだましておくれ」という驚愕の内容。お杉は悔し泣きをしながら、半七の部屋に戻って行こうとします。
実は同じころ、半七もお杉が落としていった手紙を見つけてしまっていたのです。読むと芳次郎の名で「眼病をわずらい、このままでは目が見えなくなってしまう。薬代として大金がいる。父親に要求されたと偽り、半七をだましてくれないか」と書かれていたので、怒り狂います。お杉が半七の部屋に戻るやいなや、互いにだまされ合って怒りに燃えた者同士大喧嘩に発展します。
お杉と半七の激しい口論を聞いた角蔵は、従業員を呼びつけ、「早く止めろや! 間夫(まぶ=浮気相手)から金を受け取ったとか渡したとかで、お杉が殴られている。あれは色でも欲でもなく、お杉のかかさま(母親)の病のために、おらが恵んだものだ」と言うが、すぐに向かおうとする従業員を押しとどめてつぶやく。
「いや、やめておこう。それを言ったら、おらが間夫だとわかっちまう」。
「男と女が騙し騙される」というネタは人類の永遠のテーマなのでしょうか。
「55歳下美人妻」も誰かに貢いでいた?
今回の事件とすり合わせてみます。
もうおわかりですよね。この「お杉」という遊女が、須藤容疑者で、「77歳で殺された被害者」は角蔵であります。落語の「文違い」の方はあくまでもこの角蔵が最後まで「自分だけはモテている」と思い込むオチを言って笑いを誘っていますが、よくよく吟味してみますと半七にしても、お杉にしても、また芳次郎にしても、小筆にしてもやはり「自分はモテている」と思っていると推察できる点がこの落語を聞き終えた後、読後感的にズシンと響いてくるような感じがしませんでしょうか?
もしかしたら、この小筆にも実は芳次郎より上位に、本当の恋人がいるのかもしれません。そしてさらにその恋人にも実は別の女性が……というもっと先の展開も考えられますよねえ。