OEMという事業形態のメリットと限界

千石の前身となる会社は1953年、三洋電機の二次下請として、金属プレス加工の操業を始めた。現在の千石は、売上高が170億円、従業員が290名ほどの規模に成長している。金属プレス加工から事業の幅を広げ、トースター、エアコンなどの家電製品、ガスヒーターや石油ストーブなどの生産を日本の大手メーカーやさまざまな企業から請け負い、海外にも複数の自社工場をもつ。

千石のような企業にとっては、モノづくりの能力が重要となる。こうしたOEM企業の一般的な成長の道筋は、生産の技術や設備に磨きをかけることで、製造委託の受註を増やしていくことである。OEM企業は得意のモノづくりに集中し、最終顧客に向けたマーケティング問題については、委託元のブランド企業に解決を委ねる。OEMはモノづくりに活路を見いだそうとする企業に適したひとつの事業形態といえる。

とはいえOEMという事業形態には、リスクもあれば、限界もある。委託の受註先のブランドの販売不振の影響は、OEM企業にもおよぶ。だがこの問題を、最終顧客とのコンタクトポイントにかかわっていないOEM企業はコントロールできない。OEM企業は受け身の存在なのだ。

加えて、モノづくりから生まれる付加価値の全体においては、その少なくない部分がマーケティング活動から生まれる。つまりOEM企業が獲得できるのは、最終製品による事業収入の一部でしかない。

自社ブランド構築の高いハードル

そこでOEM企業は、さらなる事業の安定化や成長機会を求めて、産業の川下への進出をはかる。この川下展開のひとつの解が、OEM企業による自社ブランドの構築である。

しかし、このOEM企業のブランディングは一般に容易ではなく、挑む者は多いが、実現できる者は少ない挑戦となる。かつての三洋電機、あるいはサムスン、ハイアールなどのように、OEM企業として成長を果たし、かつ自社ブランド事業の確立にも成功した企業が存在しないわけではないが、その例は限られる。

なぜならOEM企業は一般に、よい製品をつくることには長けているが、最終顧客とのよい関係をつくる経験には乏しいからである。モノづくりに長けたOEM企業が自社ブランドを手がけても、顧客からの評価を高めるための関係づくりがうまく進まなければ、製品を売りさばくために低価格訴求に頼ることになってしまう。肝心の高付加価値化には結びつかずに、グズグズとした状態が続くことになる。