グループになると治療のモチベーションが高まりやすい

精神疾患の患者を多く受け入れるハートクリニックにも、ためこみ症の患者はごく少数しか訪れない。重度になるほど医療が介入するのは難しく、放置されてしまう。しかし医療機関とつながることで、改善するケースは珍しくない。浅井医師は「5人以上のグループで行う認知行動療法」についてこう説明する。

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浅井「最初に治療を受ける“動機”“モチベーション”を高めるんです。『なぜ今日ここに来たのか』と、みなさんに問いかけると、『家の中で歩くのもままならない』『隣から臭いと言われた』『おふくろがうるさくてしょうがない』などいろいろな理由が出てくる。個人なら1つしかない動機が、みんなでやると『それもあるある』と複数に増えていき、うまくいくとモチベーションが高まります。

次に、なぜある物を獲得したいと思うのか。『生活費の何割もかけてほしくなるのはおかしいと思いませんか?』と聞くと、『変だと思っているんです』という言葉が出てくることもあります。なぜ捨てられないのか、取っておくのか、というのも、擬人化されていれば異常な認知です。『私の◯◯ちゃん』ではなく、普通に“物の名称”で表現してもらう。

同じ質問を問いかけ、認知行動療法の参加者一人一人が回答していくと、それは個人でやるよりも繰り返しの学習になり、“認知が修正”されやすくなります。一方で、グループではプライバシーに深く関わることは話しづらいというデメリットがありますが」

薬と認知行動療法で5割の改善が期待できる

それでも集団認知行動療法による改善度は21.4%。個人の認知行動療法を行った21.5%の改善と、ほぼ同等の効果だ。

浅井「2割の改善をどう捉えるか、ですね。ためこみ症を直接治療する薬はありませんが、例えば物を買う時の衝動性を抑えるような薬を使うなどの方法があります。一般的に薬物療法の効果は3割程度。そうすると、薬と認知行動療法の両方を合わせれば症状の半減が期待できます。臨床的には両方の治療を同時に試したいところです」

ただし認知行動療法の治療費は高額だ。アメリカでは臨床心理士の人件費と、教材費で最初の一週間だけで80万円と試算されている。しかもこれには場所代が含まれていない。日本でのクリニックのテナント料や受付などの人件費などを加味すると、月に100万円を超える負担になってしまう。

15年前、浅井医師は何とか国内で認知行動療法を根づかせたいと考え、コストを下げるために「グループでの認知行動療法」をほかの医療機関に先駆けて始めた。金額は12回コースで、およそ3万6000円。月に換算すると9000円程度で済む。アメリカに比べれば現実的な金額である。それでもまだ根付いているとはいえないという。