部屋を片付けるには、家族の協力が必要

浅井「日本では数万円以上のお金を出して心の病気を治したいと思う人は、そんなにはいないんですよ。しかもグループで行うなら最低5人以上を集めないといけない。私が診る患者さんの半分はうつ病ですが、うつ病でもコンスタントに認知行動療法に人を集め続けるのは難しい。3万円以上もかかるなら、短時間でも先生と診察で話しているほうがいいや、となってしまうんですね。

認知行動療法を行うと、症状の“改善”は見られやすい。しかし病気ではなくなるという段階までいけないのと、効果が持続しにくい傾向にあります。ですので今は診察の中で行動療法を取り入れています」

これまでさまざまなゴミ部屋を片付けてきた。家主が生きている方の場合、どう説得すればいいのか、どう治療につなげていけばいいのか、最初の糸口が見えない。

浅井「大事なことは“一人で”はできません。診察でいくら患者さんにお説教をしても部屋はきれいにならない。必ずご家族の協力が必要です。ご家族のいない単身者は非常に厳しいですが、その場合はソーシャルワーカーや行政の人の協力を得ることになります。

一度、誰かが『物量を減らす』ことも有効です。ペットボトルをためこんでいた人は、たまたま体の病気で入院せざるを得なくなり、その期間に第三者にかなりの量を捨ててもらいました」

「片付け後に誰からのケアもなければ、必ずゴミ屋敷に戻る」

「他の病気で入院中に、家の物を捨てること」が有効であるのは、実際に体験したご家族から聞いたことがある。徹底的に処分せず、「物の量を減らす」ところにとどめれば、本人は案外怒らないものなのか?

浅井「いや怒った人もいましたね。けんかしながらでも、一度捨てる、取り除く。私見ですが、一回捨てればその状態を維持するのは協力者がいれば可能だと思います。40代男性で漫画をためこむ人がいました。しょっちゅうシリーズをまとめて買ってくるんです。いったん捨てさせたのですが、その後も購入する癖は続いていました。診察の際に『また床が見えなくなってるんじゃないの?』と聞いたら、『娘と協力して処分している』と言うのです。お嬢さんは軽度の知的障害なのですが、シンプルなルールを決めて一緒に守っていったんですね。時々、ヘルパーさんに彼の家の様子を見に行ってもらっていますが、『ゴミ屋敷じゃないですよ』と報告されます。一度片付けてから、もう7年くらい経過していますよ。反対に、片付け後に誰からのケアもなければ、ほぼゴミ屋敷になります」

「一度、物量を減らす」方法は、ためこみ症だけでなく、ADHDをはじめ、うつ病、認知症、統合失調症などの「症状の一つ」の“ためこみ行動”にも有効なこともあるという。