本来持っている力を最大限発揮してもらうための「設計」

【長尾】ところで、畑の土というのはやっぱり人間が手をかけた方がいいんですか。それとも何もしなくてもいいものなんですか?

【萩原】ひとつ、写真を見せますね。これ、僕が何もしていない畑に生えた雑草のアカザです。

写真提供=萩原さん
(写真左)手を加えた自然の中のアカザ/(写真右)何もしない畑に生えたアカザ

そしてこっちが、十数メートルだけ離れた場所に生えたアカザ。全然違うんです。こっちは僕が手心を加えた自然の中にあるもので、真ん中のピンク色は血の色と同じで鉄分なんです。周りはマンガンというミネラルで、その下にはマグネシウムだったりが豊富で、そうすると虫も食わないんですよ。だから雑草も元気に育つんです。

自然にあるものの限界を超えることはできないんですけど、その中でなるべく良いバランスが取れるように設計し、土作りをするのが、僕らのやり方です。

【長尾】手心を加えたほうが、育ちやすい環境になるということですね。

【萩原】そうですね。ある限度の中で、ではありますけれど。

【長尾】面白い! やっぱり畑もそうなんだ。こねくり回すということではなくて、本来その土が持っている力を最大限発揮させてあげられるような環境になるように、人が土に力を貸すっていうことですよね。

【萩原】そうです。

年間80枚以上の“土の設計シート”

【長尾】さっき「設計する」と言われましたけど、土って「設計する」ものなんですね。

【萩原】はい。さっき言った「ふかふか」と「菌」と「化学」と「その他」の全部を考えて、設計のシートを年間80何枚作るんです。それによって野菜の出来が大方決まってくるので。

長尾 彰さん(写真=本人提供)

【長尾】僕も「フォーミング」のステージで取り組むことを「環境を設計する」って言っています。そこばっかりは手心を加えないと、人と人とのつながりが柔かくならないんですよね。

早く成果を出さなきゃ、と思っちゃうと、人間関係も固くなっちゃう。「どうしたいの?」とか「どういう仕事を成し遂げたいの?」とか、青臭い言葉ですけど希望や夢や理想が最初になくてお金の話ばっかりになると、固くなる一方で。

【萩原】そうですね。

【長尾】畑の良しあしはできた作物で可視化されるのがいいですね。人間関係の良しあしって、なかなか写真では見せられないです。

【萩原】確かに!

【長尾】世界中の経営者は、一回は農業を体験した方がいいですね(笑)。