昨年、SKはインテルのNAND事業の買収を発表した。買収額は約90億ドル(9500億円)で、SKグループにとって過去最大の買収となった。この結果、SKはキオクシアを抜いて、NAND事業で世界シェア2位に躍り出た。
スマートフォン市場で中国が最大のプレーヤーとなったように、半導体市場でも中国メーカーが大きく伸長する可能性がある。SKはその展開に対応するため、自社のシェア拡大が重要だと考えたのだろう。
日米3社の「半導体連合」が実現?
今後、キオクシアを取り巻く環境はさらに変化する可能性がある。一つの展開として、キオクシアとマイクロンとウエスタンデジタルの3社の提携による日米の半導体連合が目指されることが考えられる。
また、韓国SKがそれに異を唱え、争奪戦がさらに激化したり、買収が難航したりする展開も考えられる。また、キオクシアの既存株主の意向も争奪戦に影響を与えるだろう。キオクシアの40.64%の株式を保有していた東芝は保有株を削減し、得られた資金を社会インフラ事業の強化に再配分することを目指してきた。その一方で、東芝は、東芝株を保有する海外株主との関係が円滑ではない。東芝の収益状況や株主との関係なども、キオクシアの争奪戦に影響を与える要因だ。
米国企業によるキオクシア買収検討は、世界の半導体業界の再編が進みつつあることを示す。中長期的に世界経済全体でIT関連の投資は増加傾向をたどるだろう。すでに米中のIT先端企業は、衛星やロケット開発などに取り組んでおり、先端分野を中心に半導体需要は増大するだろう。米エヌビディアによる英ARM買収に加え、サムスン電子が日米欧の半導体メーカーの買収を検討しているとみられることは、そうした展開を見越して事業運営体制を強化するためだ。
技術の海外流出を防がなければならない
その状況下、インテルなどの米大手半導体メーカーにとって買収戦略の重要性は高まっている。韓国では、マグナチップ半導体が中国系ファンドに買収されるなど、世界の半導体産業界全体で陣取り合戦が熾烈化しつつある。
そうした変化にわが国企業は、自力で対応しなければならない。本邦企業に求められることは、米中をはじめ世界各国から必要とされる半導体関連の技術を自力で開発し、競争力を発揮することだ。それが難しくなれば、収益が減少して経営体力が低下し、海外企業に買収される可能性は高まる。
自力での長期存続が難しくなった結果として海外企業に買収されることは、わが国の国力を支える技術が海外に流出することを意味する。企業トップはその点を肝に銘じなければならない。