“巨額買収検討”の裏に米企業の焦り

わが国の半導体メモリメーカーであるキオクシアホールディングスに対し、米国の半導体大手2社がそれぞれ買収を打診している。買収を打診したのは、米マイクロン・テクノロジーと米ウエスタンデジタルで、米紙ウォールストリート・ジャーナルが報じた。

東芝の看板
写真=時事通信フォト
東芝の看板=2021年4月8日、東京都港区

キオクシアHDは、かつての東芝メモリHDだ。昨年10月に東京証券取引所への上場を予定していたが、米政府の取引規制によって先行きの不透明感が高まったとして、上場を延期している。その評価額は300億ドル(約3兆3000億円)規模といわれる。

この巨額買収の背景には、中国半導体産業の成長に対する米半導体企業の焦りがある。

足許、世界経済にとって半導体の重要性が高まっている。米中のIT先端企業は、デジタル化や環境関連の技術に加えて、宇宙開発にも取り組んでいる。先端分野を中心とする中国との競合に対応するために、米国企業にとって半導体の生産能力引き上げは喫緊の課題だ。

それは、米国が自国の生産能力を拡大して半導体のサプライチェーンを分散し、中国の台頭を抑えるために重要だ。つまり、経済の成長と覇権の維持の両面において、米国にとって半導体生産能力の増強は欠かせない。そのために、バイデン政権は財政面から民間企業の投資を支援する。世界の半導体業界において、米国企業を中心に大規模に再編が進む可能性が高まっている。

コロナ禍で半導体需要は急上昇しているが…

バイデン政権下の米国は、自国を中心とする半導体のサプライチェーンを整備し、経済の回復と安定、および、世界の覇権国としての地位を守ろうとしている。その背景には、世界の半導体サプライチェーンが、特定の企業に依存していることがある。

新型コロナウイルスの感染発生は、世界全体の半導体需要を押し上げた。コロナ禍によって世界経済の“DX=デジタル・トランスフォーメーション”が急加速し、スマートフォンやサーバー向けの半導体需要が高まった。それに加えて、巣ごもり需要が白物家電やゲーム機向けの半導体需要を増加させた。さらには自動車のペントアップ・ディマンドの発現も半導体の需要を高めた。

その一方で、半導体の供給は、世界最大のファウンドリー(半導体受託生産企業)である台湾積体電路製造(TSMC)頼みの状況だ。世界的な半導体の設計・開発と生産の分離が進む中で、TSMCは米国企業などから生産委託を取り付けた。

その上に、米国が中国のファウンドリー大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)に制裁を課したことも重なり、世界の企業がTSMCの生産ラインを奪い合っている状況だ。TSMCは微細化への取り組みを推進し、ファウンドリー2位のサムスン電子との競争格差は開いている。当面はTSMCの独走が続くだろう。