宿命に翻弄されてはいけない

人生をかたちづくるものとして、「宿命」と「運命」があります。このふたつは、似ているようでいて異なります。

宿命は、「生まれたときすでに決まっているもの」です。そして、運命は、「自由に決められるもの」を指します。

宿命は、自分の力を超えた、いかんともしがたい力です。あなたが自分の望む方向へ向かおうとしても、たえずもとの場所へ引き戻そうとする強力な力。災害や事故、病気など、宿命に翻弄されてきた人もいるかもしれません。

わたしたちは、知らないうちに宿命の力に影響されて生きています。しかし、自分の宿命を知ったうえで、その力に翻弄されずに、自分の道を切り開いて生きることもできます。

それが、自分の運命を、自分で選び取る生き方です。

たとえば、象徴的な人物として、ヘレン・ケラーが挙げられるでしょう。

彼女は1歳7カ月のとき、高熱によって突然視覚、聴覚、言葉を失った状態になります。それが彼女の過酷な宿命でした。しかし彼女は、自分の運命を主体的に選ぶ生き方により、最終的には、時代を超えて世界中の障害や貧困に苦しむ人たちの希望になりました。

彼女はこう述べています。

「自分の障害に感謝している。それによって、自分と自分の仕事を、そして神を見つけることができたのだから」

大事なのは、悪い出来事が起きるたびに、それを宿命だとあきらめずに、「またひとつ厄落としができた」と考えられるかどうか。そう考えられると、宿命に翻弄されず、自分の運命を切り開く生き方ができます。

宿命と運命の境界線は、自分で引くことができるのです。

悲しい過去を「運のいい過去」に変える

あなたには、つらく、悲しい、忘れられない過去がありますか?

「家が貧しくて、塾や習い事に行かせてもらえなかった」
「事故にあって仕事を失い、人生の歯車がおかしくなった」
「夫が長いあいだ不倫をしていた……」

多かれ少なかれ、人は過去に起きた悲しい出来事を引きずりながら、いまという時間を生きています。

実際に起きた過去は、もう誰にも変えられません。だからこそ、いつまでも心に重くのしかかり、現在のあなたを縛り続けるわけです。

しかし、過去に起きた事実は変えられなくても、その出来事に対する解釈なら変えられます。

パナソニック株式会社の創業者・松下幸之助さんは、「病気がちで、家が貧しく、学歴もなかったから成功できた」と語りました。

ふつうに考えれば、それは「うまくいかない理由」でしょう。

でも彼は、病気がちだったから、人にお願いするしかなく(それが日本初の事業部制を生みました)、貧しかったから、多少のことでへこたれない人間になり、学歴がなかったから、生涯学び続ける姿勢を持てたといいました。

写真=時事通信フォト
1978年11月23日、松下幸之助 松下電器相談役