*本稿は、野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
活躍するためには「人」の目に留まれ
プロ野球選手にかぎったことではないが、新人はまず、上司の目に留まり、注目してもらう必要がある。
いくらすばらしい才能や長所をもっていたとしても、上司が存在を認めてくれず、才能や長所に気づかなかったら、宝の持ち腐れになる。
上司が自分のよさをわかってくれないのなら、まずは自分を使いたくなるよう、仕向ける必要がある。そのためには、上司の意識を刺激し、目を向けさせることが大切だ。
「武器」とは相対的なものである
橋上秀樹というバッターは、ヤクルトの監督だった私の意識を刺激した代表的な選手だった。
私が監督に就任したとき橋上は、一軍にはいたものの、外野のレギュラーを手中にするまでにはなっていないという選手だった。横の変化球、とくに右ピッチャーのスライダーを大の苦手としていたからである。
プロ入りしてすでに6年がたち、橋上は危機感を抱いていたという。そんなとき思い出したものこそ、「おのれを知れ」という私の言葉だった。
そこで橋上は「左ピッチャーに強いこと」を自分の武器にすることにした。というのは、ライバルだった秦真司も荒井幸雄も左バッターで、比較的左ピッチャーを苦手としていたからだ。左ピッチャーに強くなれば、おのずと出番は増えるはずだ──橋上はそう考えたのである。
それから橋上は、左ピッチャー対策に磨きをかけるようになった。その姿を見ていた私は、左ピッチャーの先発が予想されるときは橋上を起用するようになった。橋上は、見事に私の意識を刺激し、目を引かせることに成功したのである。