「宇宙人・新庄剛志」を生かす方法
阪神タイガース時代の新庄剛志も、ある意味で私の意識を大いに刺激したバッターだった。
「宇宙人」と呼ばれたように、彼の言動は私の理解を超えていた。考えたり、頭を使ったりすることも大の苦手。いくら理をもって説いても無駄だった。「ミーティングの時間を短くしてくれ」と申し出てきたほどである。
しかし、素質は抜群だった。天才といってもいい。興味をもったり、気持ちが乗ったりしたときは、とてつもない力を発揮するし、素直な明るい性格で、チームのムードメーカーになることもできる。唯一無比の長所をもっていた。最下位が定位置だった阪神を浮上させるために、必要不可欠だった。なんとか戦力にしたいと私は考えた。
出した結論は、ほめておだてて気分よくプレーさせること。「何番を打ちたいんだ?」と訊ねると、「そりゃあ、4番ですよ」と即答したので4番をまかせたし、キャンプではピッチャーもやらせた。新庄は楽しそうにプレーしていた。
それまで2割2、3分程度しか打てなかった新庄だが、その年は2割5分を超え、さらに翌年は2割7分8厘、26本塁打をマーク。そのオフにはアメリカへと旅立った。
セールスポイントを徹底的に突き詰めろ
天才児・新庄のケースは万人に通用するとはいえないが、橋上のエピソードは次のことを教えてくれる。
「自分のセールスポイントを徹底的に突き詰めろ」
人を使う立場からすると、すべてにおいてほどほどの人間、きつい言い方をすれば、中途半端な人間ほど使いにくいものはない。はっきりいって、いくらでも替えがきく。一芸に秀でることが、生き残るためには大切なのだ。
野球でいえば、バッティングはからきしでも足が速ければ代走要員として貴重な存在になるし、卓越した守備力があれば守備固めに起用できる。
まずはそうした「自分ならではの武器」を研ぎ澄まし、徹することで、出場機会を増やすことが大切なのである。そこを足がかりにして、不得手なところを克服していけばいい。