*本稿は、野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
初登板、57球6失点でKO…
箸にも棒にもかからない段階、すなわち三流のうちは無視。少し見込みが出てきたら、つまり二流と呼べるようになったら賞賛。そして組織の中心を担うようになったら、すなわち一流は非難する──。
これは、野球にかぎらず、すべての世界で「一流」と呼ばれる人間を育てる際の原理原則だと私は思っている。監督として私は、つねに選手にそのように接してきた。
ニューヨーク・ヤンキースのエースともなった田中将大が楽天に入団してきたのは、私が監督になって2年目のときだった。高校を出たばかりの18歳だった田中を、私はいきなり先発でデビューさせた。相手は強力打線を誇った福岡ソフトバンクホークス。しかも舞台は敵地である。
結果から述べれば、田中はめった打ちにあった。2回もたず、6安打6失点、57球でKOされた。それはある程度予想されたことだから、かまわなかった。私が見たかったのは、KOされた彼が、どんな顔をしてマウンドから降りるかということだった。
人間は「無視」「賞賛」「非難」の順で試される
その選手の将来性を判断するひとつの基準として私は、三振したり、KOされたりしたとき、どんな顔をしてベンチに帰ってくるかに注目していた。
照れ笑いなのか、恥ずかしさを隠すためなのかは知らないが、へらへら笑顔で戻ってくる選手。これはまったく見込みがない。悔しさを前面に押し出した表情を浮かべている選手、「このくらいで負けてたまるか」という闘争心をたぎらせている選手は、大いに期待できる。私の経験上、まず間違いはなかった。
田中はどうだったか。むろん、後者だった。顔を真っ赤にしてベンチに戻ってくると、悔し涙さえ見せた。それこそ私が彼に期待していたことだった。悔し涙に濡れる彼を見て、私は確信した。
「この子は楽天を、いや球界を代表するピッチャーに成長する」