おのれの「使い道」を知れ
当時、土橋の本職のショートにはすでに主砲の池山隆寛がいた。それでサードに挑戦しようとしたら人気者の長嶋一茂が入ってきた。ならばとセカンドに転向すれば、ソウル五輪代表の笘篠賢治が入団してくる。
もはや選択肢のなかった土橋は、私のアドバイスを素直に受け入れ、監督の私からすると非常に使い勝手がよく、必要不可欠な選手になってくれた。本人にとっても幸せなことだったと思う。
その一方で、足が最大の長所であるのは明らかなのに、自分は長距離バッターだと思い込んで、いっこうにスタイルを変えない選手もいた。
私が「1、2番を空けて待っているから」といっても、グリップの細い長距離バッター用のバットを振り回すことをやめなかった。あたかも「おれのよさに気づかないなんて見る目がないんじゃないか」と思っているようで、「使わないほうが悪い」といわんばかりにふてくされるだけだった。
結局、その選手は期待されたほど大成することはなかった。
「活躍できる場所」をみずから捨てるな
本人が得意だと自信をもっていることや、やりたいことが、監督や上司がその人間の長所だとみなしていること、して欲しいことと食い違うケースはめずらしくない。
「自分の武器はこれだ」と信じているものを否定されるのは、気分のいいものではないだろう。けれども、つまらぬ思い込みのために、せっかく用意されている「活躍できる場所」をみずから捨ててしまうのは、あまりにも惜しいし、不幸ではないか。
だからこそ、自分を見つめ直し、おのれを知ることが大切なのである。