株価が上がれば利得もかさ上げされるが…

フアン氏は金融機関に証拠金を差し入れて株式を原資産とするCFD取引を大規模かつ積極的に行った。想定通りに買い建てた(売り建てた)銘柄の株価が上昇(下落)すれば、レバレッジの効果によって利得はかさ上げされる。

逆に、参照する資産の価格が逆に動くと損失は増大する。損失が許容されたレベルを超えると、金融機関はリスクに見合った追加の証拠金差し入れ(追い証)を取引相手に求める(マージン・コール)。

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相手が追い証に応じない場合、金融機関は取引相手とのポジションを解消してリスクを削減する。損失が自己資本を上回ると取引相手の資金繰りは行き詰まり、債務不履行=デフォルトが発生する。なお、どの程度の損失発生が追い証のトリガーになるかは、金融機関の体力や顧客のリスク属性によって異なる。

フアン氏は他のデリバティブ取引も活発に行い、特定銘柄のポジションを積み増していたようだ。その点に関して、法令が遵守されていたか、事態の解明が待たれる。

荒い値動きで損失に直面したか

以上の内容と米国の株価データなどをもとに、アルケゴス問題発生の経緯を考察しよう。2月半ば以降、金利上昇によって米国株の変動性は高まった。取引時間中の値動きはかなり荒く、乱高下する場面が増えた。その状況下、フアン氏は予想と異なる株価の動きによって買い建て(ロング)と売り建て(ショート)の両サイドで損失に直面し始めたのだろう。

決定打になったのが、3月22日にバイアコムCBSが増資を発表したことだ。同社株は売られ、“売るから下がる、下がるから売る”という動きが鮮明化した。それが損失を急拡大させ、アルケゴスは追い証を差し入れることができなかった。

3月26日、一部の金融機関はフアン氏にデフォルトを宣告し、200億ドル(約2.2兆円)の株式ポジションの解消を迫った。それほど、同氏のリスクテイクは膨大だった。フアン氏は金融機関に担保として差し入れていた資産の売却も余儀なくされた。それが、同氏が選好していたディスカバリーなどメディア関連銘柄の急落の原因とみられる。

想定外の損失拡大に直面した金融機関は、我先に資産の売却(投げ売り)を行ってアルケゴスに絡むリスクから逃れようとした。その遅れやアルケゴスとの取引規模などによって、日欧の大手金融機関に巨額の損失が発生したと考えられる。