思い起こされるのはリーマンショックの“端緒”
アルケゴス問題が発生した後の日米の株価の推移をみると、多くの投資家が影響は一部の金融機関に限られると楽観しているようだ。4月上旬の時点で、カネ余り環境の継続期待、コロナ禍への慣れや経済の正常化期待を理由に、先行きに強気な投資家は多い。
しかし、アルケゴス問題は、特定の金融機関への影響だけでなく、世界の金融システムの不安定性を高める一因になりかねない。アルケゴス同様に、デリバティブ取引によってレバレッジをかけ、より大きな利得を目指す投資ファンドは多い。見方を変えれば、アルケゴス問題は、世界の大手金融機関が許容レベルを上回るリスクを蓄積していることを確認する機会だ。
資産価格の過熱感が高まると、一部金融機関などのリスクテイクの過大さが顕在化し、結果として世界の金融システムにストレスがかかることがある。思い起こされるのが、2007年8月上旬、仏大手金融機関BNPパリバ傘下の投資ファンドが証券化商品の価値下落によって運用に行き詰まったこと(パリバショック)だ。その後、証券化商品の価値は急落し、世界各国の金融機関が巨額の損失を計上した。それがリーマンショックにつながった。
「金融機関同士の疑心暗鬼」が生まれている
今すぐ、そうした展開が起きるとは考えづらい。ただし、アルケゴス問題の影響は過小評価できない。特に、金融システムにおけるカウンターパーティー・リスク(取引相手が契約通りに義務を履行するかに関する不確実性)は高まりつつある。
野村は米ドル建普通社債の発行を中止した。低金利環境下、国債よりも利回りの高い社債の需要は強い。それでも発行が見送られたということは、アルケゴス問題の影響を警戒する投資家が少なくないことだ。在米のベテラントレーダーはその状況を「金融機関同士の疑心暗鬼」と評していた。
また、アルケゴス問題が他の金融機関の損失発生の直接的あるいは間接的な原因となる可能性もある。米国ではSECが情報収集に注力しており、投資ファンドへの規制強化に関する議論も進む。
それらは投資家にリスク削減を志向させる要因だ。アルケゴス問題の全貌は明らかになっておらず、先行きの展開を注視する必要がある。