結束力を高めるために「飛ばす」判断も必要

もちろん、こういう「人を刺す」ような行為はある意味、悪辣な行為である。組織運営上も、また私自身の中間管理職としての政治的な立場を守る上でもリスクを伴う。

冨山和彦『リーダーの「挫折力」』(PHP研究所)

だから彼が問題児であることは社内の一つの空気にはなっていたが、社長への直談判は、ひそかに直接やって、できるだけ外には漏れないようにした。もちろん、私自身は沈黙を守り通した。それでもこういうことは、どうしても滲み出るもので、その後、私を警戒する幹部社員、批判的な人々は増えたようである。ただ、そういうマイナス面を覚悟しても、組織全体の目的達成とその本人自身の幸福にとって、あの時点では、彼を「飛ばす」ことが正しいというのが私の判断だった。

事業や組織がだんだん一つにまとまっていくのは、やはり気持ちがいいものである。苦戦しながらも、それを乗り越えてきたという自己実現感も得られる。やがて、そこで働く人同士の連帯感も生まれてくる。

ただし、どんなに頑張っても、全員を同じ船に乗せたまま幸せにできるとは限らない。先の大手メーカーから来た社員のように、降りてもらわねばならない人が出てくることもある。そのときは「力」の行使を躊躇してはならないのだ。

その際、降りてもらう人、降りてもらうタイミング、降ろし方をうまく演出できれば、組織全体の結束力を高め、エンカレッジできる場合もあるのだ。

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