能力はあるのに、あえて仕事で手を抜く社員がいる。彼らはなぜ仕事で本気を出さないのか。多くの企業の再建を手がけてきた経営共創基盤(IGPI)会長の冨山和彦は「携帯電話会社の立ち上げで、ある大手メーカーから出向してきた人がいた。キャリアもあり、さほど無能には見えない。にもかかわらず、まったく働く意欲がない。サボる理由を知って、私は鬼になった」という——。

※本稿は、冨山和彦『リーダーの「挫折力」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

赤い日本のマスク
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多種多様な人を束ねるのが現代のリーダー

同じ会社、同じ部署でずっと働いてきたからといって、相手のことを十分に理解しているとは思わないほうがいい。育ってきた環境や年齢、性格によって人の考え方は十人十色だからである。

これが他部門や他社となるとなおさらである。私がかつていた携帯電話会社は、さまざまな会社からまったくバラバラの業種の人が集められた、寄せ集めチームだった。昨今では同様に、買収や合併により突然、別の会社の人たちと同じチームとして働くようなケースも増えている。さらに、パート・アルバイトや派遣社員といった異なる労働形態の社員や、日本人以外の社員も増えている。

今のリーダーには、こうした多様性の高い組織をまとめていくことが求められているのだ。

このような組織において、何もしなくても人間関係がスムーズにいくことなどまず、あり得ない。では、どうすればいいのかというと、まずは、それらの人々の「クセ」を見抜くことが重要だ。

「クセ」を見抜くことが、相互理解の第一歩

例えば鉄鋼メーカーには、鉄鋼メーカーの思考のクセがある。商社には商社のクセ、電機メーカーには電機メーカーのクセがある。皆自分のやり方が普通で、正しいと思っている。

用語一つとっても、業種によって解釈はまちまちである。例えば「長期」というと、鉄鋼メーカーの人は20年、30年単位を考える。一方、商社の人、市況商品の貿易にかかわってきた人などは、10年でもはるか先のことのように感じ、彼らの「短期」は「今日」を意味する。同じ日本人とは思えないほど、頭の中身が違うのだ。当然、話は噛み合わない。

一人ひとりを見ても、すでに定年間近の人もいれば、入社まもない若者もいる。大会社からの出向もいれば、派遣で来た人もいる。個々の抱える背景もキャリアも能力も、まったく異なるのだ。こうした個々の特性を知らなければ、組織を動かすことはできない。

この経験は、のちに任されることになる産業再生機構での仕事に大いに役立った。あらゆる業界、業種、規模の企業の再生を手がけるにあたっては、まずはその企業の社員の思考のクセを見抜くことが必要になるからだ。

これは一つの会社内でも実は重要だ。営業、製造、経理などの各部門によって、使う言葉や立場はまったく異なってくる。それら他部署の人の思考のクセを知らなければ、社内でコンセンサスが取れていたと思っていたことが実際には取れておらず、思わぬ失敗をすることがある。