「過去の自分」にだけ勝てばいい
「己を知る」ための最善の方法はあるのでしょうか?
自分で自分をわかっていることを、心理学では「メタ認知」といいます。メタとは「高次の」という意味で、メタ認知は、自分の行動や考え方や性格などを別の立場から見て認識する活動を指します。
まず、人はふつうに過ごしているだけでは、「己を知る」ことなどできません。鏡に映った自分を見るように、自分についてはっきり認識できるわけではないのです。
そこで人はどうするかというと、まわりと比較して自分を測ります。そして、場合によっては、「あの人がうらやましい」「どうして自分にはできないのだろう」と、嫉妬心にとらわれてしまいます。
それでも、人はなにかと比較することでしか自分についてはわかりません。そのため、わたしがおすすめしたいのは、比較する対象を「過去の自分」や「自分の理想像に近い人」に設定するやり方です。
このうち、「自分の理想像に近い人」は他人との比較にはなりますが、「自分があこがれる人」という意味合いであり、その人を見たり、思い浮かべたりするとポジティブな気持ちになれる人のことです。あこがれの人の真似をしたり、その人の振る舞いを自分も取り入れたりしてみるわけです。
そして、そんな自分を「過去の自分」と比べてみて、少しでもよくなっていればいい。たとえわずかな進歩でも、「昨日の自分よりはマシ」と思えれば十分です。
「過去の自分」にだけ勝てばいいのです。
そうしていると、まわりと比べて己を知ろうとする行為も、自分の成長へとつながっていきます。
「自分の考えが正しい」と思い込むことなかれ
ひとりで勉強し続けていると、ときに「己を知る」という認識にゆがみが生じる場合があります。自分の特質や強みに目を向けて勉強していたはずが、いつのまにか「このやり方が最適」「この考え方が絶対正しい」などと思い込むようになってしまうのです。
実は、アドルフ・ヒトラーは独学の達人でした。歴史をはじめ、哲学、社会学など様々な学問を彼はすべて独学していたといいます。そして、その過程で、彼は「生存圏」という概念を紡ぎ出し、ドイツ民族の生存圏樹立のために、強者による弱者の征服が必要であるとする考え方を正当化しました。
人は、いったん「これが正しい」と思い込んでしまうと、それを補強する知識や論理しか受け入れなくなります。これは「確証バイアス」と呼ばれ、まるで自分が頑丈なシールドのなかに入ってしまったような状態です。そして、そのシールドを通過してきた、自分の願望や信念を裏づけてくれる知識しか受け入れられない状態になるのです。