江藤監督の最初のミーティングは衝撃的だった。「興奮で震えました」と当時の湯本達司主将が振り返る。
ポイントは3つだった。一つは、目標を明確にした。『マネジメント』にある「組織の目標設定」である。新監督は「毎年、1回は優勝する」と力強く宣言した。
「4年間、在籍して、1回も優勝を経験せずに卒業するなんて、そんな寂しいことはない。とくに4年生には優勝してもらいたい、と思ったのです」
早大には佑ちゃんという敵役もいた。こんなラッキーなことはない。
「まず斎藤くんをやっつけて優勝したい、と吹いたんです。めぐり合わせですよ。自分が慶應の歴史の中で初めて元プロ野球出身の監督となった。しかも斎藤くんの最後の年です。学生たちに、“ここで佑ちゃんを倒せば、俺の年になったとき、子どもや孫に自慢できるぞ”と盛んに言いました」
もう一つが、ユニホームの着方だった。伝統の青色に白の2本ラインのストッキングが見えるよう、ユニホームパンツは上げろ、と。流行りのロングパンツは禁止とした。
ストッキングの2本ラインは過去2回のリーグ戦の全勝優勝を意味する。
「二本ラインは先輩が築いた功績なんです。それを隠すなんて何事だって」
残る一つが「エンジョイ・ベースボール」の徹底である。安易にエンジョイという言葉を使うな、と。鍛練あるのみ。勝ってから、エンジョイと言え。すなわち「エンジョイ封印」だった。
「学生は誤解していた。エンジョイが先走って、野球を楽しもうなんて……。負けて楽しいということはありえないんです。2日酔いで楽しんで野球をやりたいのなら、どこかの草野球のチームにいってくれと」