プロ野球界そのものに、日本最大の興行団体だという無意識的な自負があり、外部から足りないものを学ぶ姿勢が乏しいというのも、学びに鈍感な一因だったのかもしれません。萩原さんの思いに共感した私は外部から加わり、こうした課題を解決する取り組みをスタートさせました。
最初に掲げたテーマはチームビルディングです。チームビルディングについて学びながら、ベイスターズの新たな組織文化を構築する試みがスタートしました。
1年目、ファームコーチとスタッフにあった閉塞感
最初に取り組んだのはチームの空気を変えることです。かちかちに固まった雰囲気を柔らかくするために、さまざまな取り組みを行いました。
シーズンオフの2014年11月と2015年1月を使い、延べ4日間、朝から晩までチームビルディングのトレーニングを実施しました。参加者はファーム(二軍)のコーチとスタッフ20人です。トレーニング初日、大半の参加者が嫌悪感を顕わにしていました。
「オフなのになんで朝から集まるんだよ」
「なんで変わらなきゃならないんだ、面倒くさいなあ」
ほとんどの参加者はまったく私の話を聞く気がありません。
ベイスターズは成績こそ下位に沈んでいますが、プロ野球というスポーツ界のトップに君臨しているという無意識的な自負があったのか、外部から学ぼうとする姿勢は感じられませんでした。
トレーニングの講師を務める私は日本ラグビーフットボール協会に所属し、大学ラグビーの監督や指導者の育成がキャリアの軸になっています。
「プロスポーツの我々が、なぜアマチュアスポーツから学ばなければならないのか」
こうした心の声が手に取るように伝わってきます。
グループワークで6人がテーブルを囲んでも、冷たい反応が続きます。
不信、不安、敵愾心……。その場の空気はネガティブな要素で占められていました。
「目標は共有しているが、共感できていない組織」
こうした事態に、私はほとんど驚きませんでした。私がチームビルディングやリーダー育成などで関わる多くの企業でも、最初はこうした拒絶反応が起こることが珍しくありません。
第一線で活躍するビジネスパーソンはみなさん、それぞれ誇りを持たれています。そのため、スポーツの世界で指導者の育成などを手がけてきた私がトレーニングに入ると、毎回ほぼ同じような反応が起こります。
「スポーツの世界の人が何か? ここはビジネスの世界ですけど」
かつての栄光を胸にかろうじて踏みとどまっている企業も、旧態依然の体質から変われない企業も、外の世界から学ぼうという姿勢はほとんど感じられません。当時のベイスターズの反応はまさに硬直した日本企業の典型でした。