それでも、集まってくれたからにはチャンスがある。トレーニングを重ねていけば気づきもあるだろう。そう考えて自己分析シートなどを活用して、自分たちがどのような組織なのかに気づくセッションに取り組みました。

組織文化を知るチェックリストの結果を見ると、「見える化」「言える化」の数値が明らかに低く、次のような特徴が浮き彫りになりました。

「互いのやっていることが見えず、互いのやっていることを見る必要もないと思っている」
「互いに言いたいことを言わないし、意見を言う必要もないと思っている」
「ノウハウの共有は、基本的にあり得ない」

こうした結果から導きだされたチームの状態は、次のように定義できます。

「目標は共有しているが、共感できていない組織」

優勝なんて無理だと思っていた

「共有」とは、組織の全員が目標を知っている状態のことです。「共感」とは、組織の全員が目標を本気で達成したいと思っている状態を意味します。

ベイスターズは、優勝を目標に掲げていても、それぞれの心の中では「とはいっても、無理だろう」と思っていたのです。

グローブの中に納まる野球ボール
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プロスポーツは野球に限らず、極限の成果主義の世界です。学んだからといってチームが勝てる保証がないため、学ぶことそのものを軽視し、「学ぶのは格好悪い」「学ぶのは恥ずかしい」という感覚が染みついていました。

学ぶというのは、自分の足りないところを認める作業です。そこに対して抵抗感が強かったのです。わからないと伝えて自分に足りない部分が明らかになるくらいなら、学びそのものを遠ざけたいと考える人が多かったようです。

本来は誰でも、いくつになっても学ぶほうがいい。誰もが心の奥ではそうわかっていながら、その思いを素直に表明できていませんでした。そこから変える必要があったのです。

そこでトレーニング1年目は、学んだことを人前で発言し、仲間と共有してもらいました。まずは学ぶことはすばらしいという価値観に変わるように促していったのです。

トレーニングの場で、学んだ人や学びを共有した人に拍手を送り、「自分が思っていることを話してもいい」「互いに意見を言い合うことはすばらしいことだ」と思える環境をつくっていきました。

2年目、優勝できると思っていなかった一軍コーチ

ファームのコーチとスタッフのトレーニングは最終的にそれなりの成果を得られました。そこで2年目は、一軍にもトレーニングに参加してもらいました。一軍とファームのコーチとスタッフ総勢80人で、組織文化を変えようとしたのです。