「そもそもみなさんは何を目標にしていますか」

私の問いに対して、一軍のスタッフのほとんどが「優勝」と答えました。

「なるほど、優勝を目指しているんですね」

そう確認して一つのセッションを終えます。休憩に入ったとき、近くにいた若手コーチたちと雑談を交わし、セッションの話になりました。

「目標は優勝なんですね」

私がそう確認すると、思いもよらない言葉が返ってきました。

「本当に優勝できると思います? みんなこの戦力で勝てるとは思っていませんよ」

これこそ、目標を「共有」していても「共感」できていない最たる例です。組織において、目標が「共感」されていないようでは意味がありません。誰も体験したことがないので実感が湧かないのは仕方がないとしても、本気で優勝、日本一を狙うことを共感できる状態にすることが最初の課題でした。

3年目、「優勝するためには」と語るように

トレーニングを始めて2年目に判明した課題を解消するため、3年目に私が強烈に押しだしたのは「優勝」「日本一」という言葉でした。グループで討議するときも、個人でワークシートに記入するときも、発言したり書いたりするときには必ず枕詞に次のフレーズを入れるように求めたのです。

「優勝するためには」
「日本一になるためには」

ワークショップでは、この言葉を参加者一人ひとりが何度も連呼せざるを得ない状況をつくりました。私もしつこく「優勝するためには」と言葉を重ねます。すべての場面において「優勝するためには」「日本一になるためには」と言葉にして、ひたすら意識できるように繰り返していきました。

当時のベイスターズは、優勝を狙うポジションにはありませんでした。そのため、最初はみなさん「優勝」や「日本一」という言葉を口に出すのが恥ずかしかったようです。それでも続けていると、徐々に口にするのが普通になっていきます。

そもそもコーチやスタッフが「優勝」や「日本一」と口にできなければ、選手に熱意は伝わりませんし、選手もその気にならないでしょう。

それを理解してからは、「優勝」「日本一」という言葉が急速に浸透していきました。

2015年5月2日、横浜スタジアム
写真=iStock.com/liorpt
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言葉がなじみ、習慣になり、行動が変わる

組織文化を変えるには、所属する人の言葉と行動が変わらなければなりません。

まずは言葉が変わり、話し方が変わっていく。最初は取ってつけたように話していた言葉が自然になじんでいくと、行動や姿勢も変わっていきます。組織に所属する一人ひとりが無意識のうちに実践できるような習慣に落とし込むことができれば、その言葉や行動は組織文化として定着していきます。