周囲からの陰湿なイジメで帯状疱疹から顔面麻痺に

認知症(要介護2)とパーキンソン病を発症した当時74歳の母親は、誰かの支えなくしては歩けなくなっていた。

白石さんは、もはや在宅で母親を介護する自信がなく、家へ帰りたがる母親をなだめるしかなかった。

しかし、家から近い市民病院に入院していると、すぐに近所の噂になった。白石さんが朝、母親の見舞いに行かないと、夕方にはそのことが近所中に知れ渡っている。白石さんは、近所の人に会うのが苦痛で仕方がなかった。

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そんなとき白石さんは発熱と頭痛に見舞われ、市民病院の外来を受診。薬を出されるが一向に良くならず、だんだん左耳が痛くなってきた。再度受診すると、看護師に耳鼻科を勧められる。言われるままに耳鼻科へ行くと、「帯状疱疹だね。耳のふちにいっぱいできてるわ。顔面麻痺が起こるで」と言われ、ステロイドの点滴をするため、入院を勧められる。

しかし白石さんは、「母が入院しているし、犬がいるので入院はできません」と断る。医師は「自分も入院しないといかん病気なんやで。お母さんは入院してるんやったら安心やし、犬はどうにでもなるやろ」と言うが、白石さんは頑な。仕方がないので医師は、通院で対応してくれた。

顔の左半分に麻痺が出始めた白石さんは、味噌汁やスープなどの液体を飲もうとすると、口の左端からダラダラとこぼしてしまう。困った白石さんは、ストローを使って口の右端で吸い、固形の食べものも、口の右側で少しずつ食べていると、涙が溢れた。

「もうこんなところに住みたくない」心の底から思った

翌日、点滴のために病院へ行くと、看護師が「しんどいやろ? 月曜日は入院の準備をしておいで。ね?」と優しく声をかけてくれた。白石さんは入院することを決意し、顔の麻痺を隠すためにマスクをして母親の病院へ行った。

母親に1週間入院することを話すと、「あんたが入院したら私はどうなるの!」と大声をあげた。思わず白石さんはマスクを取り、「私、こんな顔になってるんやで!」と言うと、母親は白石さんを指差し、「何や、その顔は!」と大笑い。

白石さんはパジャマや下着を1週間分置いて、母親の病室を出た。

入院を終え、母親の病院を訪れると、母親は白石さんが置いていったパジャマや下着には手をつけず、近所の友だちや自分の弟嫁に洗濯を頼んで持ってきてもらっていた。家へ戻ると、「母親をほったらかしてどこへ行っていたのか?」という近所の人の噂話が耳に入ってきた。

「もうこんなところには住みたくない」。白石さんは心の底から思った。