ホテル不況でも拡大戦略をとる理由

創業50周年記念キャンペーンも好評でした。2020年11月の第一弾では「アパ社長カレー」を宿泊者にもれなくプレゼントしました。これはアパホテル直営レストランのカレーとして開発され、2011年から販売し現在700万食を達成したもので、神田カレーグランプリで3位に入賞するなど味もお墨付きです。パッケージに社長の顔が印刷してあるので、お客様にとってはちょっとしたお土産に、ホテルにとってはパンフレット代わりになるわけです。これが意外にも好評で、その後ネットで申し込んでくる人が多かったですね。

アパグループ元谷外志雄代表(撮影=市来朋久)

第二弾では一泊一室3900円キャンペーンを行いましたし、現在行っている第三弾では「アパルームシアター(客室VOD)」を無料で提供しています。コロナ禍により客室滞在時間が長くなっていることから着想したものです。

アパホテルはM&Aも積極的に行っています。これは、ゼロ金利時代で物件の保有コストが低い今こそ、拡大戦略をとったほうがいいという判断からです。直近では「ホテルWBF新大阪スカイタワー」を買収し3月30日に「アパホテル〈新大阪駅タワー〉」としてリブランドオープン。さらに千葉県内で7ホテル目となるホテルを取得し、「アパホテル〈千葉中央駅前〉」として2月18日にプレオープン、東京都心で85棟目となるホテルを取得し、アパホテル〈京成蒲田駅前〉として3月19日にリブランドオープンと、既存ホテルの買収によるリブランドオープンが続きます。

借りたお金は十数年かけて返すことになるため、トータル期間の金利が安い時に行うのは鉄則です。土地代が2~3倍になったとしても金利がゼロ%台であるため、保有コストがかつての5分の1~7分の1ほどまでに下がった。金利が7~8%だった創業当時では考えられないことが起きています。

銀行側も、貸し倒れの心配がない超健全企業にはどんどん融資します。アパホテルは創業以来赤字を出したことがなく、直近5年間で累計1670億円の経常利益を出しており、収益率は業界ダントツです。通常のホテルは運営者と不動産の所有者とブランドを持つ者がそれぞれ10%程度ずつ利益を分配していますが、アパホテルは全てが自前であるため、30%近くの経常利益のすべてが自社のものです。

信用が基盤の好循環経営

社会インフラを使ってビジネスをしているからには、きちんと儲けて税金を払う。そうして信用を得て銀行から資金を調達し、さらに事業拡大する。この好循環を活用して、アパホテルは寡占化の一番乗りを目指しています。まだアパホテルのシェアは10%に満たないですが、20%を超えるホテルが出てきた時から寡占化が始まります。アパは採算が取れなくなったホテルを買い取り、リブランドすることによって、現在のオーバーホテル現象をチャンスとして、拡大戦略を取ります。人もお金も、モノも一番のところに集まるからです。

コロナ禍が収束しても、基本的に戦略は同じです。

2019年まで年間3000万人だったところから一気にほぼゼロになってしまった訪日観光客は、2025年の大阪万博までにはある程度まで回復が見込めるでしょう。大阪梅田駅タワー(1704室・2023年開業予定)と大阪難波駅タワー(2060室・2024年開業予定)に建設中のアパホテルはそれを見越しているのもあります。

しかし、そもそもアパホテルは一過性のイベントに依存する経営をしていません。コロナ禍でさほど打撃を受けなかった要因も、ビジネスマンを主体にしてきて観光客が主たる需要層ではないからです。当面はアパのブランド力をさらに高め、引き続き出張族をターゲットに、「進化するアパホテル」として新都市型ホテルの進化を図っていきます。そうすることで、2020年4月から始めた第三次頂上戦略「SUMMIT 5-III」では、パートナーホテルを除く自社ブランドホテルのみで10万室達成するのが目標です。

(構成=李志晩)
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