アパホテルはレトルトカレーの「アパ社長カレー」を販売している。そのパッケージには社長の顔写真が大きく入っている。なぜカレーを開発したのか。何のために社長の写真を入れているのか。開発者で社長の息子である元谷拓氏が解説する——。

※本稿は、元谷拓『アパ社長カレーの野望』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

アパホテルの看板
写真=時事通信フォト
アパホテルの看板=2017年1月24日、東京都港区

直営レストランのカレーの味が統一されていなかった

アパ社長カレーの「困難(スパイシー)な状況」は、その誕生以前にさかのぼります。

「違う!」

ある地方のアパホテルへ行ったときのこと。ホテル直営のレストランでカレーを食べた私は衝撃を受けました。なんと、東京の直営レストランのものと味がまったく違ったのです!

「アパホテルでは、直営レストランのカレーの味が統一されていない」というショックな事実に直面した瞬間でした。老若男女を問わず人気のカレーは、ホテルレストランの看板メニューです。カレーがレストランの評価を決めるといっても過言ではなく、また、そのホテルのブランドをも左右しかねない特別なメニュー。大手シティホテルほどそれがわかっているので、カレーには力を入れていますし、ホテルブランドを上手く使って商品化もしています。それが、アパホテルでは味がバラバラ……。

「金沢カレー」にピンときた

「アパならではのおいしいカレーを開発しよう」

まずは全国各地からありとあらゆるカレーを取り寄せて試食です。一口にカレーといっても、本場のインドカリー風から昔なつかしい家庭的なもの、北海道のスープカレーほかご当地カレーなど、実にバラエティ豊か。これならモデルにできるものも見つかるはず。ところが……ピンとくる味にはなかなか出会えませんでした。

さんざん食べるなかで、ふと思い出したのは故郷石川県で子どものころに食べたカレーでした。

「そうだ、金沢カレーだ!」

金沢カレーといえば、ゴリラの看板が目を引くゴーゴーカレーでご存知の方も多いでしょう。ビーフシチューのようなコクとごはんの上にキープされる濃厚さ、とんかつとキャベツが添えられた石川県独自のご当地カレーです。私のカレーの原点であり、また、金沢はアパホテル発祥の地でもあります。私はゴーゴーカレーの大ファンで、宮森宏和社長に、アパホテルが発行している『アップルタウン』という雑誌のなかの「スーパー企業最前線」のコーナーで、取材に行ったくらいなのです。

めざすカレーはこうして決まりました。