「アパホテルといえば社長だろ」

せっかくおいしいカレーができたのだから、ホテルに泊まらない人にも食べてもらいたい。お土産にもちょうどいいし、アパを知ってもらうきっかけにしよう。というわけで、3キロの業務用カレーだけでなく、1人前用200グラムも発売することになり、アパグループ代表 元谷外志雄のもとに企画書が上げられました。

「うん、うまい!」

カレーを試食した代表がそういって決済のハンコをポンと押したので、「よし!」。ところが、「味は合格だがネーミングがな……」と渋い顔をしています。

文書に会社の印鑑を押す日本人男性ビジネスマン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

……イヤな予感がしました。

実は、私が企画書を提出した段階では、商品名は「アパホテルの本格派ビーフカレー」。もちろん、パッケージにはとんかつとキャベツをあしらった金沢カレーの盛り付けイメージを前面に出すつもりでした。

「アパホテルといえば社長だろ。社長どこ行ったんや」

言葉につまる私を見透かしたかのように代表が一言、ズバリと放ちました。

「逃げるなよ」

そして追い打ちをかけるかのように、

「隠すなよ」

そこからは経営のプロにして、敏腕プロデューサーの元谷外志雄の独擅場です。

「これじゃ面白くもなんともない。お客様も手に取らん」
「ネーミングを間違うと誰も買わない」
「アパ社長カレーでどうだ」
「それならパッケージにも社長がいなきゃダメだろ」
「インパクト重視だ。フロントに置けばいいお土産になるぞ」

カレーのパッケージに「自分の母親の顔」

こんな経緯で、おいしそうなカレーを見下ろす位置に、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたモナ・リザのような、謎めいた微笑みをたたえたアパ社長の写真が入ったアパ社長カレーができあがりました。

代表の読み通り、フロントに来る人の目をくぎづけにし、通りすぎる人の足が止まり思わず二度見する強力な魔力……もとい「魅力」で売り上げに貢献しています。

逃げたつもりがない……とはいいません。でも、想像してみてください。自分の母親の顔がカレーのパッケージにプリントされているのを。母は好きですし、広告塔という役割を理解していたつもりでしたが、「食べ物のパッケージに入れちゃっていいのかなぁ……」という迷いがあったのは事実です。

そんな息子の迷いを見抜き、チリのごとく吹き飛ばしてくれた代表の慧眼はさすが。私の覚悟も決まりました。あの一言には感謝しています。

お客様の手に届けるためには、意表をつくインパクト、大胆で強気の戦略、話題性のあるトンガリ感が必要です。そして何より、自分のなかの「スマートにコトをおさめたい」という見栄に打ち克つ覚悟が大事、と痛感した一幕でした。