「サッカーとビジネスは別物」ではなかった

大学教員としての担当分野は、スポーツマネージメントや、スポーツビジネスだ。ゼミには「将来はスポーツにかかわる仕事につきたい」という学生が集まってくる。学生たちには、自身の経験を踏まえてトライアル&エラーの重要性を伝えている。

2018年度の授業で教鞭をとる東明有美さん=本人提供

「『サッカー選手経験が役立つ仕事』だと考えて電通に行きましたが、最初からピッチ内とビジネスは全く別物だと捉えていたので、使える経験や長所を生かしきれていなかったんです。でも両者に共通するものはあるはず。それをうまく整理して、仕事に生かせれば、もっとうまくいったのではないかという反省があります。そういうことも含めて、自分が“ダメダメ”だと気付いた5年間は、その後の人生の原動力になりました」

こうした経験は、大学の仕事にも生きているという。

「『もっと違う見方ができていたら解決策が見つかったかもしれない』『別の持っていき方をしていたら営業でも成功していたのかな』『全部1人でやろうとせずに周りの力を借りていたら違った結果になっていた』などという反省を踏まえ、学生にアプローチできるのは大きいと改めて感じます」

「ハリルジャパン」はなぜうまくいかなかったのか

大学教員の仕事と並行し、香港で設立した会社「パス&ゴー」の事業として、企業研修やコンサルタント業務も手掛けている。新型コロナウイルス拡大前は、年間契約していた企業も複数あり、かなり多忙な時間を過ごしていたという。

東明さんが企業研修やコンサルティングにおいて手掛ける主要テーマの一つが、「チームビルディング」だ。東明さんは、チーム形成には①形成期、②混乱期、③統一期、④機能期、という4つの段階があり、その過程をうまく経なければ強い組織は生まれないと説く。

「例えば、2018年ロシアワールドカップでベスト16入りした男子の日本代表チームは、本番2カ月前にヴァイッド・ハリルホジッチ監督(現モロッコ代表)が更迭され、西野朗監督(現タイ代表)が就任して成功しましたよね。ハリルさんは『混乱期』が長く続いて、『統一期』になかなか行けない状況だったと思います」

東明さんの分析はこうだ。

「チームビルディングの過程では、『形成期』や『混乱期』を行ったり来たりするものなんですが、長すぎる『混乱期』は、やはりよくない。それに日本人は『統一期』をどう持ってくるかが特に大事です。『混乱期』を早く収束させなくてはと考えたJFAが判断して監督を変え、最終的に成功へつなげたんでしょう」