これは、借金をして未来へ負担を押し付けることにより、本来であれば享受できない水準の社会保障を受けていることになります。しかし、国民にその自覚はあるでしょうか。無いでしょう。それどころか、負担の割に不十分な社会保障しか受けられていないという感覚ではないでしょうか。借金が無ければ、その不十分な社会保障の水準すら保てないのですが。「負担はしたくない。でもお金は欲しい」という非常に「わがまま」な要望に政治が応え続けてきた結果がこれです。しかし、多くの国民はこの現実を知りません。

消費税25%のデンマークは、海外での手術も無料

負担の大きい上位国、例えばデンマークは、負担が大きい代わりに、医療費も教育費も介護費も完全に無料です。特に医療費は億単位の治療費がかかっても国が負担します。海外で億単位の手術をする場合も費用を出してくれるそうです。しかし、それは国民一人一人がとても大きな負担をしているからです。みんなでたくさんお金を出し合うから、誰かのリスクが顕在化して困った時に、国がお金を出して支えることができるのです。お金をたくさん出し合うことで、個人のリスクを軽減していると言えます。

世界幸福度ランキング(2017年〜19年)を見ると、日本は62位です。世界3位のGDPを誇る国が、幸福度では62位。1位はフィンランドです。2位にデンマーク、3位にスイス、4位にアイスランド、5位にノルウェー。スイスを除いて上位5位を占めているのは高負担・高福祉の北欧諸国です。日本よりはるかに多くの税金を取っています。日本では嫌われている消費税の税率も高く、いずれの国もGDP比で言えば消費税を日本の倍くらい取っています。特にデンマークは、軽減税率も無く、一律に25%の消費税を課しています。でも、たくさん税金を取る分、たくさん政府がお金を使えます。だから社会保障が充実します。

<編集部注>2020年1月現在の各国の付加価値税率(標準税率)は以下の通り。ハンガリー27%、デンマーク・ノルウェー25%、フィンランド・アイスランド24%、スイス7.7%。

名目賃金の伸び、ポルトガル166、日本94

社会保障で人々が得たいものはなんでしょうか。「安心」でしょう。病気や事故等のリスクが顕在化した時でも、国が助けてくれるという安心があれば、幸福度も増すでしょう。みんなでたくさんお金を出し合って支え合うから、「安心」を手にすることができるのです。

他方で日本はこれらの国よりはるかに負担は低いです。それは未来に負担を押し付けているからです。でも、この幸福度ランキングを見る限り、たくさん借金しても結局国民が満足できる社会保障を提供できていないのではないかと思います。

高負担国家と日本で一番違う点は賃金です。付加価値税対GDP比上位10カ国と、日本の名目賃金・実質賃金について、1996年を100とする指数で比較してみましょう。まずは名目賃金から(図表6)。

2018年を見てみると、一番伸びているエストニアは671.3です。日本を除けば一番伸びていないポルトガルですら166.7です。ところが、日本は94.2。唯一96年より下がっており、異常です。先進国で唯一日本だけがデフレになっているなどという話を聞きますが、それはこうして賃金が下がっているからでしょう。賃金が下がっているから、安い物しか売れなくなり、勝手に物価が下がるのです。