コロナでどん底を味わった老舗寿司屋の逆転劇
「寿司屋として独立して45年。バブルやリーマンショックなど、時代の移り変わりとともにいい時も悪い時もあった。そんな人生の中で、2020年4月の新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の時が、最も経営的に苦しかった……」
そう語るのが、今回の主人公、寿司職人の堀川文雄さんです。
1975年創業、東京都世田谷区の下北沢駅から徒歩15分ほどの住宅街に立地する「鮨 ほり川」。地元客を中心に今では毎日席が埋まるほどの人気店です。大将の堀川さんは73歳。20~30代の大将が増えてきている寿司業界において、堀川さんは、職人歴53年の大ベテランです。
「昨年の緊急事態宣言の何がつらかったかって、2カ月近く営業することができないってこと。でもそんな時だからこそ、次はどうしよう、と打開策を自然に考えていましたよ」
女性アルバイトの方たちとさまざまなアイデアを出し合い、悩み抜いた結果誕生したのが、「ほり川スペシャル」というおまかせコースでした。
「若い人に本当にうまい寿司を知ってもらいたくてね。つまみの刺し身は毎日市場で仕入れた10種類程度のネタから好きなものを3つ選んでもらったり、トロやウニやエビなど、みんなが好きな王道のネタを盛り込んだ、いいとこどりの構成。コロナで暇になって深夜にランニングをしていた時にこの構成をひらめいたんだ」
いいアイデアを思いついただけでは、コロナ禍においてお客さんを取り戻すことはできません。73歳の堀川さんは、驚くべき行動にでます。アルバイトの女性に指導を仰ぎ、SNSの「note」で1本の記事をアップしたのです。
SNSで客足は戻るどころか連日満席に
「試しにやってみよう」という気持ちで昨年4月4日に公開した記事「【73歳】現役で寿司屋をやっています【下北沢】」が大きな話題に。続いて開設したツイッターで、コロナの影響で予約が0件という旨を発信すると、当日に2人、翌日に7人のお客さんが来店し、客足は戻るどころか連日満席になるほどの話題店へとなっていきました。
実際に私寿司リーマンも店に伺い、8000円の「ほり川スペシャル」をいただきました。つまみはもずくサラダから始まり、自分で選べる刺し身の盛り合わせにエンガワのしゃぶしゃぶ。握りはいきなり大トロやウニなどの強力なネタをこれでもかと楽しめる。そして極めつきは、柔らかめでほんのり甘めのシャリと、季節の高級フルーツを組み合わせた、完全オリジナルの「フルーツ寿司」で締めくくるという、斬新でクリエイティブな衝撃的なコースでした。
この73歳の職人の頭の中をのぞきたくなり、他のお客さんが帰った後、堀川さんから話を聞かせていただきました。