教育界は、根拠なき添加物嫌い

実のところ、教育界の添加物に対するバイアスは、たびたび問題となってきました。「家庭科」の教科書や副読本の記述すら危ういことが、食品安全委員会が2010年にまとめた「食品の安全性に関する効果的な教育啓発素材の開発に関する調査報告書」で取り上げられています。同委員会で2014年に設置されていた「リスクコミュニケーションのあり方に関する勉強会」でも議論されました。

また、2009年に文部科学省が策定した「学校給食衛生管理基準」には「有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品、又は内容表示、消費期限及び賞味期限並びに製造業者、販売業者等の名称及び所在地、使用原材料及び保存方法が明らかでない食品については使用しないこと」という記述があります。消費者団体からも、「そもそも有害なものは食品添加物として認められていないのに……」と批判されています。

今回の出題は、こうした教育界の科学的根拠なき添加物嫌いを露呈したのかもしれません。

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英語科目だから、科学リテラシー無視でよいのか

食品に関するニセ科学、不安を煽る言説や消費者を誤認させる広告などに詳しい高橋久仁子・群馬大学名誉教授(食生活教育)はこう話します。「世間に食品添加物有害論がはびこるのは、一部の雑誌や書籍にとっては金儲けの手段だからです。人々が日常的に接することの多い砂糖代替甘味料に対する不信感を煽れば、販売部数を増やせます。英語問題作成者たちが世間のそのような風潮に影響され、問題点に誰一人気づかずこのように出題されたことにある種の絶望感を抱きます」

科学は私たちの社会の今や根幹をなすものになっています。人々に科学リテラシーを育てるのは急務です。新型コロナウイルス感染症との闘いの中でどれほど、質の低い研究結果が発表され社会に大きな混乱を招き、否定され忘れ去られて行ったか。イソジンやK値等の騒動を思い浮かべれば、容易にわかります。

そんな時代なのに、科学リテラシーが無視され、好奇心旺盛で身近なことを調べられる力のある受験生がむしろ、迷ったかもしれないのです。高橋名誉教授は懸念します。「気候変動や地球環境問題でも、世間には間違った情報が氾濫しています。こうした分野についても、入試問題で今後、同じようなことが起きるのでは」

今回の出題を、化学や生物ではなく英語の問題であり、英語として正しい解答を選べばよいのだから、と片付けて済む話でしょうか? リテラシーを育ててゆく大学教育のための入学テストで、週刊誌レベルの内容が「教科書の一節」として50万人の受験生に示され、今後は過去問として毎年、何十万人もの子どもたちが読むことになります。

<参考文献>
・欧州食品安全機関(EFSA)・アスパルテーム
・オーストラリア・ニュージーランド食品基準庁(FSANZ)・アスパルテーム
・Toews, I et al. Association between intake of non-sugar sweeteners and health outcomes: systematic review and meta-analyses of randomised and non-randomised controlled trials and observational studies. BMJ 364, k4718 (2019).
・Soffritti, M. et al. The carcinogenic effects of aspartame: The urgent need for regulatory re-evaluation. American Journal of Industrial Medicine 57, 383–397 (2014).
・Aguilar, F. et al. Statement on the validity of the conclusions of a mouse carcinogenicity study on sucralose (E 955) performed by the Ramazzini Institute. EFSA Journal 15, e04784 (2017).
・ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)・Harmful compounds might be formed when foods containing the sweetener Sucralose are heated
・アメリカ食品医薬品庁(FDA)・Additional Information about High-Intensity Sweeteners Permitted for Use in Food in the United States
Acesulfame K (E 950): extension of use in FSMP in young children. European Food Safety Authority
・食品安全委員会・アセスルファムK評価書
・食品安全委員会・アドバンテーム評価書
・Takayama, S. et al. Long-term feeding of sodium saccharin to nonhuman primates: implications for urinary tract cancer. J Natl Cancer Inst 90, 19–25 (1998).
・畝山智香子・ほんとうの「食の安全」を考える ゼロリスクという幻想(化学同人、2009)
・Suez, J. et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 514, 181–186 (2014).
・Ruiz-Ojeda, F. J., Plaza-Díaz, J., Sáez-Lara, M. J. & Gil, A. Effects of Sweeteners on the Gut Microbiota: A Review of Experimental Studies and Clinical Trials. Advances in Nutrition 10, S31–S48 (2019).
・日本食品添加物協会・2021 年大学入学共通テストの英語(リーディング)問題文に対する見解
・食品安全委員会・食品の安全性に関する効果的な教育啓発素材の開発に関する調査
・食品安全委員会・リスクコミュニケーションのあり方に関する勉強会
・文部科学省・学校給食衛生管理基準の施行について

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