出題文は、チェリーピッキングを行っている
科学研究は、その質がさまざまです。「懸念につながる研究がある」(Some research links……)、「がんの原因となると疑われる強い物質を含む甘味料がある」(Some LCSs contain strong chemicals suspected ……)という状態では、それは妥当な説とはなりません。質の高い複数の研究で同じ結果が支持されて初めて、信頼できる定説となり得ます。さらに研究が進めば、説がひっくりかえる可能性があることも忘れてはなりません。それが科学であり、そうした構造を理解するのが科学リテラシーです。
もし、出題文が甘味料の悪影響を示す研究があることと共に、各国の機関が健康への懸念を否定している事実も示し、最後に「個々人が念入りに検討し選ぶ必要がある」とまとめたのであれば、科学的には妥当です。ところが残念なことに、出題文は数多くの研究結果から筆者にとって都合のよい一部の質の低い研究を選びストーリーを作る「チェリーピッキング」(cherry picking)を行ったように見えます。これでは、雑誌やウェブメディア等で散見される「甘味料が危ない」という扇情的な記事と同レベルです。
「人工vs自然」は、ニセ科学の手法
また、出題文では人工的(artificial)と自然(natural)が対比され、人工的な甘味料が問題視されています。しかし、化学物質は人工的か自然かではその性質を区別できません。自然の怖さはフグ毒、腸管出血性大腸菌等、枚挙にいとまがありません。人工vs自然の構図を作り、人工的なものは……と続けるのは典型的なニセ科学のロジックであり、健康食品や化粧品等の販売によく見られる商法です。
食品添加物協会は、見解を発表
共通テストの出題情報は食品業界を駆け巡りました。添加物メーカーのほか大手食品企業も多数加盟する「日本食品添加物協会」は1月21日、見解を公表しました。「ごく一部の研究内容を基に安全性への懸念だけをクローズアップすることは、公に使用が認められている甘味料に対して、誤った認識及び不安や混乱を与えてしまう」と指摘しています。
そのほか、市民団体の中にも意見書を出す動きがあり、内閣府食品安全委員会は直接的には共通テストには言及していないものの1月22日、公式facebookで、食品添加物の安全性評価について解説しています。