不利になった受験生がいる可能性

私は、この出題文について1月23日、noteで「拝啓 大学入試センター様、共通テストに科学リテラシーはありますか?」を公表しました。独立行政法人大学入試センターの広報担当部署に、日本食品添加物協会などの指摘をどう考えるか尋ねたところ、「当該の問題作成分科会に報告いたします」との返事。問題の作成方法を尋ねたところ、「1分科会20名程度で2年間かけて作成している。その間、3つの点検部会(教科の専門的な視点からのもの、教科横断的な視点からのもの、高校の教育現場の視点からのもの)において、複数回点検している」との回答でした。

知人の学識者からはもっと深刻な指摘が寄せられました。「好奇心旺盛で身近なことを調べたりしてよく知っている受験生は不利になったのでは?」というのです。

出題文では、自然の甘味料としてキシリトールとソルビトールが言及されています。

There are a few relatively natural alternative sweeteners, like xylitol and sorbitol, which are low in calories. Unfortunately, these move through the body extremely slowly, so consuming large amounts can cause stomach trouble.
(キシリトールやソルビトールのような、比較的自然な代替甘味料がいくつかある。カロリーは低い。不運なことに、これらは体の中を非常にゆっくりと動く。そのため、多量を摂取すると、胃のトラブルを引き起こし得る)

そして、5つの選択肢の中から2つの正しい内容を選ぶという問3で、
⑤Sweeteners like xylitol and sorbitol are not digested quickly(キシリトールやソルビトールのような甘味料はすぐには消化されない)を選べば正解、となります。

しかし、記述は実際の現象とはずれています。キシリトールやソルビトールなどの糖アルコール類が招くのは胃のトラブルではありません。これらは、ガムやキャンディに用いられますが、パッケージには「一度に多量に食べると、体質によりお腹がゆるくなる場合があります」と表示されています。糖アルコール類は、人の胃腸では消化されにくく、そのまま大腸へ到達します。すると、大腸内の浸透圧が上がり、これを下げるために大腸に水が集まり、緩くなったり下痢を引き起こしたりします。そのための注意喚起表示です。

キシリトール入りのガムやキャンディの表示は目立ちますし、実際にお腹が緩くなる人は多いですから、高校生の中にもネットで検索して調べたことがある人がいるかもしれません。そんな高校生は出題文に首をかしげざるを得ないし、⑤を選ぶのも躊躇するかもしれません。下痢は、体内の不要なもの、体に有害なものをすばやく排出する体の正常な機能でもあるからです。