トランプ政権が食品規制を強めている。科学ジャーナリストの松永和紀さんは「先頭を切っているのが、自然志向で反ワクチンや反農薬、反添加物、反加工食品などを訴えてきた閣僚だ。しかし、彼らの主張はエビデンスがはっきりしないものが多く、まずは疑う必要がある」という――。

「自然派長官」が食品規制を次々と実行

アメリカの食品安全行政が今、揺れに揺れていることはご存じでしょうか?

トランプ大統領がR.F.ケネディJr.氏を保健福祉長官に任命しました。ケネディ氏は以前から自然志向で、反ワクチン、反農薬などを掲げ弁護士として活動していた人物。長官になって以降次々に、新方針を打ち出しています。

R.F.ケネディJr.氏
R.F.ケネディJr.氏(写真=アメリカ合衆国保健福祉省/PD US HHS/Wikimedia Commons

たとえば4月、石油系着色料(合成着色料)の段階的な廃止方針を示しました。5月には、子どもの健康について、超加工食品や合成着色料、人工甘味料、電磁波などの影響を示唆する「MAHAリポート」を公表しました。

ところが、廃止や批判の理由となる科学的根拠(エビデンス)がはっきりしないのです。それどころか、MAHAリポートは、実在しない論文が引用されているのが見つかり、ハルシネーション(AIが事実と異なる情報を作り出すこと)が起きたとみられています。

アメリカの科学者の間では、ケネディ長官の反科学、陰謀論的な思考に懸念が高まっているようです。日本でも、ケネディ長官と同じような自然志向を持つジャーナリストや市民団体、政治家などが一定数います。アメリカはどうなるのか? 日本にどのような影響があるのか? 日本も反科学に流れてゆく可能性があるのか? 探ります。

「子供たちの健康や発達に大きな有害性」

ケネディ氏が長官を務める保健福祉省(HHS)は、下部組織として食品医薬品局(FDA)や疾病予防管理センター(CDC)、国立衛生研究所(NIH)などを抱えています。長官の意向は、医療や食品行政に強く反映される、と見られており、さっそくワクチン接種の見直しなどが始まっています。

食品分野では、HHSとFDAが4月22日、石油由来の合成着色料を2026年末までに廃止し、新たな天然着色料の審査と承認を進める、と公表しました。

2つの着色料は承認を取り消しし、6つについては段階的に排除する、との計画。ケネディ長官は発表の中で「長い間、事業者は理解も同意もなく、石油系着色料を用いてきた。これらの有害な化合物は、栄養学的な利益がなく、子供たちの健康や発達に大きな有害性を持っている。こうした事態は終わりを迎える」と宣言しました。