更年期障害、子育て、地方……ハンデを超えて起業

スタートアップに参加することで「起業したい」という気持ちは高まる一方だったが、この頃から更年期障害による心身の不調に悩まされるようになった。2人の娘は小学生と保育園児で、まだまだ手がかかる。「しかも、営業先も資金調達先もみんな東京が多いので、地方在住というのはめちゃめちゃハンデがありました」

そんな中、シリコンバレーで出会った女性起業家のネットワークを通じて、新規事業コンサルティングなどを手掛ける「uni’que(ユニック)」が展開する、女性に特化したインキュベーション事業「Your(ユア)」に出合った。

Yourに応募し、採択されると、uni’queスタッフのサポートを受けながら事業立ち上げを進められる。実績も資金もないベンチャー企業が、システム開発やファイナンスの優秀な人材を集めるのは大変だが、Yourではこれらもチームでバックアップしてもらえる。そして自分の事業が成長すればuni’queの子会社となり、持ち株を取得して代表に就任できる。複業も推奨されているので、医療系AIロボットシステムスタートアップの仕事も続けられる。高本さんは、「これなら起業できる」と応募。2019年11月に採択され、高本さんの新規事業プロジェクトが走り出した。

「更年期」をテーマにした事業にフォーカス

さらに大きかったのは、「何をテーマに、どのようなサービスを事業化するか」をブラッシュアップできたことだった。

uni’que代表の若宮和男さんには、「ワクワクやため息の中にビジネスの種がある」と教えられた。自分がワクワクするようなテーマや、自分が普段、不満を感じてため息をついているような課題を解決できるようなテーマを考え、絞り込んでいった。

「アイデアはたくさんありました。若宮さんを相手に、ああでもない、こうでもないと壁打ちするうちに、実体験に基づいた“更年期夫婦向けコミュニケーションサービス”が事業のコアバリューになりそうだということがわかってきました。それから実現に向けてシステムを作り始めました」

サービスには、自らの体験がふんだんに取り入れられ、β版は2020年4月に完成、7月には本格的にスタートした。また、「パートナーがいないけれど更年期について知りたい、誰かに寄り添ってほしい」「パートナーと使う前にコミュニケーションについて学びたい」といった要望が寄せられたため、2021年2月には1人で使えるサービスも始める予定だ。「更年期であきらめかけていた起業が、更年期のおかげで実現するなんて」と高本さんは笑う。

uni’queのメンバーとのオンラインミーティング。左上が高本さん、右下がuni’que代表の若宮さん(写真=本人提供)

「これまで、起業家の多くは男性でしたし、起業で多くのサービスを生み出しているのも男性でした。今、男性が『世の中に足りないサービスは何だ?』『どんな課題が残っている?』と探しているけれど、それは片目で世の中を見ているのと同じ。女性が困っていることはまだたくさんあるし、女性が違和感を持ち、不満を抱えながら何十年も改良されないままになっているサービスや商品が、まだたくさんあるはずなんです」

更年期などのフェムテックの分野は、その典型と言えるだろう。