人を育てるプロセスの3段階

人を育てるプロセスには「無視」「称賛」「非難」という3つの段階があると考えている。これは、あらゆる分野において人を育てる際の原理原則だろう。

新人や能力不足の選手は「無視」の段階である。無視というと無責任で冷たいように聞こえるが、「観察して見守っている段階」と言えばいいだろうか。

実力がないのに無視されてふてくされるようであれば、そもそも最初から見込みはない。無視された悔しさをバネに、「認めてもらいたい。そのためにはどうすればいいのか」を考えるところから、人の成長がはじまるのだ。

可能性が見えてきた選手は、「称賛」の段階になる。ある程度実力をつけてきたときは、褒めることがその選手の向上心を後押しするからだ。ただし、褒めてばかりだと、「自分は一流だ」と勘違いしはじめる。

そこで中心選手にまで成長したら、「その程度で満足してはダメだ。さらなる上を目指してほしい」という期待を込めて、あえて「非難」するのだ。

人は褒められているうちは、一人前ではない。いろいろと周囲から非難されるようになってはじめて一人前。「あいつが打たないから勝てない」「あいつがしっかり投げないから勝てない」などと言われ出して、やっと本物なのだ。

結果を出しているのに非難されるのは、実力が本物に近づいてきた証。よろこぶべきことなのだ。

指導者は「人使い業」

ヤクルト、阪神、楽天の監督時代、わたしがもっとも力を入れたのがミーティングだった。

おおげさに聞こえるかもしれないが、身命を賭していたと言っても過言ではない。というのも、ミーティングは選手の信頼を得るための最良の機会だからだ。

なかでも肝心なのが、開幕前の春季キャンプで行うミーティングだ。シーズンオフのあいだ、野球と距離を置いていた選手の頭は新鮮な状態である。野球をしたいという欲求も高まっている。

野村克也・著『野村の結論』(プレジデント社)

その状態の頭に、野球に関する知識はもちろん、自らの哲学や思想を叩き込めば、「監督は野球だけでなく、あらゆることをよく知っている」と驚き、感動してくれる。

感動は人を変える根源である。
感動はプラスの暗示をもたらす。

人はマイナスのことには感動しないものだ。逆に、感動すれば自然と動くようになる。「感動」とは読んで字のごとく、「感じて動く」ことなのだ。

プロ野球の指導者は、いわば「人使い業」。与えられた人材を育て、使い、動かして結果を出す。

その最大の武器を、わたしは言葉だと考えている。だからわたしは、コーチに対しても、「選手には何度でもかんで含めるように、懇切丁寧に説明しなさい」と言い続けた。

その言葉に感動すれば、選手たちは自ら動きはじめるからである。

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