EV化に舵を切る欧州メーカーの苦しい事情

コロナショックを境に、わが国経済にとっての自動車産業の重要性は一段と高まっている。

足許の世界経済は新型コロナウイルスの感染拡大によって停滞している。その状況下、主要国に先駆けて景気回復が鮮明な中国の新車販売市場では、トヨタのレクサスブランドが人気を獲得している。他方で、わが国には米中の大手ITプラットフォーマーに匹敵する企業が見当たらない。すり合わせ技術を強みにしてきた自動車産業の競争力向上が難しくなれば、わが国経済は立ちいかなくなる恐れがある。

また、独仏を中心に、欧州経済にとっても自動車産業は重要だ。ただし、リーマンショック後の欧州自動車産業にとって、競争優位性を思うように発揮することは容易ではなかった。

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その象徴がフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題である。足許では独ダイムラーの業績も不安定だ。ある意味、EV化は生き残りを懸けた欧州自動車勢にとって“渡りに船”だ。欧州委員会が仏PSAとフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の経営統合を条件付きで承認したのは、経営体力をつけてシェア獲得やEV化を有利に進めるためだろう。米国の自動車産業にとってもEV化は競争力立て直しに重要だ。

カーボン・ニュートラルは実現できるのか

菅首相が表明した2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする政策は、経済にどういった影響を与えるのか。結論を先に述べると、目標実現は容易ではない。それだけでなく、事実を冷静に踏まえず政策が進められると、経済にマイナスの影響が及ぶ恐れがある。

理由の一つに、わが国の電力供給が火力発電に依存していることがある。2019年度のわが国における発電実績の内訳は、火力が約81%、原子力が7%、再生可能エネルギーなどが12%だ(データ出所は資源エネルギー庁の電力調査統計)。

他方、2018年のドイツの発電実績では火力が49%、原子力が12%、再生可能エネルギーなどが39%だった。同年のフランスは火力が7%、原子力が72%、再生可能エネルギーが21%だ。

原子力発電所の再稼働が難しい中、わが国のエネルギー政策はCO2の排出量が多い火力を重視せざるを得ない。再生エネルギーの実用化には時間がかかる。その状況下でカーボン・ニュートラルを基準に産業活動が評価されれば、わが国で労働力を集約して(雇用を生み)自動車生産を行うことは難しくなる。

部品が減り、産業全体に大きな影響が出る

その展開が現実となれば、自動車各社は経済全体で温室効果ガスの削減が先行している海外に生産をシフトせざるを得なくなるかもしれない。それは、雇用にも政府の財源確保にもマイナスだ。エネルギー政策の転換なしに、カーボン・ニュートラルに関する議論は進まない。