本の中の例は「筆者の主張ありきで設定された例」
わざわざ本を書いてまで主張することなのですから、その本の中には、新規性に富んだ「筆者の主張」があるはずです。そこを捉えることこそが、読書の基本であり神髄です。しかし新しいことを主張するのですから、その主張は受け入れがたい、もしくは理解が難しいものであることがほとんどです。
そんなことは筆者もよく分かっていますから、彼らは具体例や比喩を用いることによって、自身の主張をどうにか伝わりやすくしようと試みます。とはいえ、この具体例などは、「筆者の主張ありきで設定された例」でしかありません。その例は、その主張が通ることが前提として設定されたうえで、そこに設置された例なのです。
その具体例を通して私たちに伝わるのは、「そのある一場面においてのみ」その主張が正しいということのみであり、この事実だけでは他の場面について応用することができないのです。本で学んだことを自分の仕事などに生かせない根源はここにあります。
理解を深めるには真逆の例を考えてみる
ですから、私たちが本を読んで筆者の主張、新しい考え方に触れた時に行うべき1つ目の読書術は「筆者の主張に出ている以外の場面、具体例を想定すること」なのです。筆者の例ではその主張が100%通るとわかり切っていますから、むしろ、「筆者の主張が通らないような状況」を自分で設定してみて、その2つの状況を比較することに理解のカギは沈んでいるのです。
「恋は盲目である」という主張があったとしましょう。あなたがこの主張を見た時にすべきは、きっとこの後に展開されるであろう「恋は盲目」を体現するような恋愛エピソードを見て共感性羞恥に陥ることではなく、「それでは、『恋は盲目』にならないような例はあるのだろうか?」と考えることなのです。
例えば「恋は盲目なのであれば、盲目的に熱中しなければ、それは恋ではないのであろうか?」もしくは「恋は盲目というが、逆に言えば盲目的に熱中したものがあれば、それは全てが恋と言えるのであろうか?」という具合です。そして、その2つの具体例を考えてみるのです。「友人のAは確かに恋愛をしていたが、盲目と言えるほどには熱中していなかったな」「周りが見えなくなるほどに釣りに熱中した時期があったが、あれは恋だったのであろうか」といったように。
これを通すことで、筆者の主張の整合性を確かめるとともに、自分の中で主張自体の理解度を上げることもできます。「深く理解している」ということは、「物事を多面的にみて、説明することができる」ということに他ならないためです。筆者の主張が当てはまらないようなさまざまな場面を想定し、筆者の出す具体例と検証することで、逆説的に筆者の主張の理解度を深めることができます。